わが国のイノベーション力向上に向けて、経済産業省は人材の供給システム・教育の更新が不可欠とし、文部科学省は種々の問題解決型教育の理論的基礎となるPBL(Problem/Project based Learning)の促進を推奨している。世界ではPBL教育は指導法のみならずカリキュラム化の実践研究が進んでおり、数々の成果が報告されている。日本でも、科目単位のPBL指導法と効果の検討を超えて、種々の問題解決型学習を中心としたカリキュラム化を急ぐ必要がある。 そこで本研究では、高専において「継続的で一貫性のあるPBL教育プログラム(以下、PBL)」を開発し、それを履修した卒業生の現在(30歳前後)を調査してその教育効果が卒業後の創造性等にどう影響するかを検証した。具体的には、2005~13年の間にPBLを6年間継続受講した群と従来の高専教育受講群の卒業生を比較し、現在の学習特性と仕事への姿勢や価値観に現れる特徴の違いを測定した。 その結果、(1)高専教育において“学習者中心の教育方略”としてPBLは適している、(2)PBLは“環境的、社会的、技術的課題を総合的に扱う新しいカリキュラム構成”に向けた具現化を果たし得る、(3)本研究で開発したPBLは、授業終了直後および卒業10年後の両方において教育効果が認められることを示唆する結果を得た。 すなわち、受講群は非受講群に比べ、専門性をより発揮しており社会人汎用力、自己主導学習頻度、問題解決への積極性などが高い、社会問題と仕事を連関させ特にグローバル課題に関心が高い、未来志向で挑戦意欲が強いという傾向にあり、従来の卒業生とは異なる資質が付加されたことが推察できた。最終的に、PBLは学期や学年を跨いで実施する分野統合的科目群として設計し、環境・社会・技術的課題を総合的に扱う一貫的教育プログラムとしての導入が有効であるとの結論を得た。
|