移民の排斥に見られる異質性の排除や、外国人恐怖症、ヘイトクライム、ひいては政治的対立などの根底にある政治的感情としての恐怖は、今日の世界において信頼と友情に根ざす民主主義の理想を脅かしている。負の連鎖を断ち切り他者との相互信頼の関係を築き直すことは、民主主義の実存的課題であり、哲学の実践的課題である。本申請研究は、他者との肯定的な関係を築き直すための哲学実践に向けて、ソロー、エマソン、フーラーの19世紀アメリカ超越主義をもとに、他者の差異化と互換性に根ざす「承認」(recognition)の政治学の限界を乗り越え、他者と「諾」という肯定に基づく関係を結ぶ「受諾」(acknowledgment)への思考様式の転換を図る。欧米との国際的な哲学対話を通じ、アメリカ超越主義が、他者の受容を通じて個の単独性に向き合い相互の自己信頼を高め合う「孤立のための教育」として広義の政治教育や道徳教育で果たす現代的意義を解明する。 最終年度には、査読付き国際学術誌に最終成果発表の論文が掲載され、また国内では、『哲学事典』にアメリカ超越主義についての項目が掲載された。また中国における国際学会(オンライン)において、アメリカ超越主義と他者の受諾に関わる招待講演を行った。 研究期間全体を通じて、(1)毎年の査読付き国際学術誌への英語論文の出版、(2)アメリカ超越主義をめぐるイギリス、フィンランド、フランスの共同研究者たちとの国際ネットワークの拡充、(3)国内におけるアメリカ超越主義の研究の普及、の成果をあげることができた。
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