最終年度は,大きくは2つの成果を提出した。1つは,これまでの研究蓄積をもとに,授業スタンダードとインクルーシブ教育の関係について検討を行う論文を執筆した。包摂を意図して実施される授業スタンダードが,結果として,そのスタンダードを守ることができない子ども,とくに,発達障害の子どもたちなどには,逆に排除されうる結果になることを,自身のデータをもとに示唆した(「SNEジャーナル」所収)。また,このことは,「規範と排除の相乗的相互作用プロセス」として機能することを指摘した。同時に,授業スタンダードに準拠しないかたちで,通常学におけるインクルーシブ教育をどのように進展させるのかについて,学級規範の「脱臼」という概念を用いながら論じた。具体的には,授業スタンダードに代表される学級規範に依拠しながらも,その学級規範で遊ぶ―例えば,授業スタンダードを校長が来たときにだけ遵守するゲームとする―ことで,既存の学級規範のなかで適応しつつ,内在的に解体させるような取り組みを重視した(「教育目標・評価学会紀要」所収)。 もう1つは,特別支援学校高等部における作業学習における「スタンダード」とは異なる形の実践を報告した。作業学習,なかでも陶芸では,「同じ形」をつくることが求められる。しかし,本実践報告では,同じものをつくることではなく,それぞれが自分たちの表現を大事にしながら陶芸に取り組み,その意味について議論を行った(「神戸大学大学院人間発達環境学研究科紀要」所収」)。 研究期間全体としては,小学生における授業スタンダードの認識を明らかにすることに加えて,教師を対象とした授業スタンダードの認識についても明らかにすることができた。
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