令和5年度は、主に射水市中央図書館において、南原繁が射水郡長時代に親交を深めた片口安太郎に関する旧「片口文庫」の調査を実施した。旧「片口文庫」は、元々小杉町立図書館に所蔵され、『小杉町立図書館蔵片口文庫目録1983』も作成されていたが、市町村合併にともなって射水市中央図書館に引き継がれ、書庫に収められている。今回、射水市中央図書館より書庫内調査の許可を得て、小杉町立図書館時代の目録に掲載された1466タイトルについて確認した。資料が内容に応じて再分類されていたことに加えて、紛失したと思われる資料や目録とは異なる番号が付されている資料などがあり、確認作業は困難なものとなったが、「郷土資料」部分に関する新たな目録を作成することができた。 研究期間全体を通じて、富山県・東京都への訪問調査を実施し、南原繁および戦後教育改革に関する資料を収集・分析してきた。当時の富山県射水郡に関する資料の保存状況について、博物館や図書館の担当者から貴重な示唆を得ることができ、射水郡長時代の南原に関する研究に対する資料面の制約を図らずも実感することとなった。しかし、そのようななかで、射水郡長期の南原が、自らの経験を基にした素朴な認識ではあるものの、教師に対して心や魂の問題だけでなく教育の内容・方法に関する力量も求めていたことを確認でき、また南原と片口安太郎の長年にわたる交流を示す資料から、郡立農業公民学校創設を通じた二人の協力関係の一端を垣間見たことは、南原における教育の専門性認識の生成を検討するという本研究の目的に照らして大きな収穫であった。
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