研究課題/領域番号 |
20K02544
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
岩田 一正 成城大学, 文芸学部, 教授 (70338573)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高校教育 / 教育理念 / 教育言説 / 教育雑誌 / 総合雑誌 / 新聞 / 1960年代初頭 / 1980年代半ば |
研究実績の概要 |
本研究は、1960年代初頭と1980年代半ばという、戦後日本における二つの高等学校進学希望者急増期に、高校教育の理念や意味がどのように論じられていたのか、またその論じられ方には時期や地域で差異が見られるのかということを、新聞や総合雑誌、教育雑誌などを資料として分析することによって、現代日本において高校教育の積極的な理念や意味が共有されない歴史的な文脈を究明しようとするものであり、この作業を通じて、現代日本における高校教育とは何なのかということを省察するための、教育史に基づく新たな足場を提供することを目指すものである。 2020年度は、戦後日本で最初に高校進学者急増が問題化した1960年代初頭に刊行された新聞、総合雑誌、教育雑誌を資料として、進学希望者急増を契機として高校教育の理念や意味がどのように論じられるようになったのかを分析する作業に取り組み、新聞や総合雑誌の一部(『朝日新聞』『毎日新聞』『中央公論』『世界)についてデータベースの作成を終え、記事の分析作業を進めた。しかし、コロナ禍や想定していなかった学外業務のために資料調査に制約がかかり、地方誌紙、教育雑誌に関して十分に作業を進めることができなかった。また、研究計画で予定していた1980年代半ばの高校教育に関する聞き取り調査も実施できなかった。 但し、このような状況ではあったが、戦後日本の高校教育が背負っていた歴史的負荷を検討した拙稿「高等教育機関の特色―大学・専門学校・師範学校・高等学校・中学校―」、 また今日の高校教育の意味の一端を解明した拙稿「外国につながる子どもたちが遭遇する困難―ドキュメンタリー番組を中心に―」、さらにコロナ禍によって改めて照射された、高等学校を含む学校教育の意味に関する教育実習生の視点からの記述を含んだ拙稿「コロナ禍における学生たちの学びと日常」を研究成果として公刊することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間を前期(2020・21年度)、後期(22・23年度)に区分し、前期には第一に1960年代初頭に刊行された新聞(中央紙)、総合雑誌、教育雑誌を資料として、進学希望者急増を契機として高校教育の理念や意味がどのように論じられるようになったのかを検討すること、第二に東京都、過疎県である島根県、教育県として知られる長野県のそれぞれに在住する元教師に、1980年半ばの各地域の高校教育の実態や課題などに関する聞き取り調査を実施し、当時の高校教育の理念や意味について検討するべき観点を導出すること、第三にその観点に基づき、新聞(中央紙と地方紙)、総合雑誌、教育雑誌を資料として、1980年代半ばに高校教育の理念や意味がどのように論じられていたのか、また高校進学希望者が急増した大都市圏と急増しなかった島根県・長野県とのあいだで、また急増しなかった両県のあいだで、論じられた理念や意味にどのような違いが存在するのかを分析すること、という三つの作業に取り組むことを計画していた。 第一の作業については、基礎作業に取り組み、各媒体の記事のデータベースを作成することができた。一方、第二・第三の作業については、コロナ禍、そして想定していなかった学外業務のため、状況的に、また時間的に実施することができなかった。 このように、研究計画を作成した段階で想定していなかった事態が生じ、研究計画の実行に影響があった。しかし、データベースを作成する作業と並行して、本研究をより長期に亘る歴史的文脈に位置づけるために、本研究が分析する時期の以前と以後の高校教育を論じた三つの研究成果を公刊することができた。
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今後の研究の推進方策 |
前記した学外業務は2020年度で終了するが、コロナ禍についてはどのように収束していくのかということを見通すことができないため、地方での資料調査、聞き取り調査、特に後者を実施することができるのかどうかがわからない状況にある。 そのため、1960年代初頭の新聞、総合雑誌、教育雑誌の記事を分析する作業を進めつつ、地方での調査を開始することができる環境が整った段階で、まず地方誌紙を対象として1980年代半ばの高校教育を論じた資料調査を実施し、高校教育の理念や意味の地域差を分析する作業を開始することとしたい。 また、2021年度は研究期間内に十分な聞き取り調査を実施することができない事態も想定して研究調査を進め、状況が好転しない場合には、年度末に今後の研究調査において聞き取り調査を実施するかどうかを判断し、その判断に基づき、今後の研究計画を改めて作成することとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請書作成段階では想定していなかったコロナ禍や学外業務のため、資料調査の一部と聞き取り調査を実施することができなくなり、それらの調査に計上していた旅費を使用しなかった。また、学会もオンライン開催となり、旅費を使用しなかった。さらに、これもコロナ禍が影響しているが、図書館などの利用が制限され、勤務校での資料収集が十分に実施できない状況となったため、その補助をしてもらうことを想定していたアルバイトの人件費を使用することもなくなった。以上の理由によって、次年度使用額が生じることとなった。 取り組むことができる目途が立ち次第、次年度使用額が生じることとなった研究調査活動を開始したい。なお、目途が立たない場合には、今年度の研究調査活動の成果を文書化する作業を優先させ、それに要する経費に次年度使用額を活用していくこととしたい。
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