研究課題/領域番号 |
20K02546
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研究機関 | 和光大学 |
研究代表者 |
太田 素子 和光大学, 現代人間学部, 名誉教授 (80299867)
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研究分担者 |
藤枝 充子 明星大学, 教育学部, 教授 (00460121)
織田 望美 和光大学, 現代人間学部, 講師 (00848955)
大西 公恵 和光大学, 現代人間学部, 准教授 (70708601)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レッジョ・インスピレーション / プロジェクト / ドキュメンテーション / 実践記録 / 幼小接続 |
研究実績の概要 |
今年は1年目で、このテーマで初めて共同研究を組んだメンバーなので、先ずは共通認識を積み上げる理論的な研究会を重視した。研究会は6回開催し、プロジェクト・アプローチに関する共通のテキスト2冊を中心に検討した。実践記録の国際比較とはどうしたら可能か、比較とは何を比較するのかといった基本問題から議論。ドキュメンテーションの意義、日本の保育記録との比較、プロジェクト活動のテーマの性格、探究における「美」の意義、「傾聴の教育」についても議論になった。コロナ禍のため海外への視察調査に行けなかったが、新教育を実践した関西の師範附属学校と都内私立学校の幼稚園・小学校低学年の実践記録を探索した。 太田は、この間にストックホルムの公立幼児学校における3つのプロジェクトについて分析を行い、この科研の趣旨に即して論じている。そこでは、スウェーデンのレッジョ・インスパイヤードの実践について、①2歳児保育のプロジェクトでは、体感的な外観の認識を言葉(概念)とともに共有し、遊びながら概念を豊かにして、言葉(概念)という人類の文化遺産を獲得しながら外界を鋭敏に認識する力を育てている。②5歳児のプロジェクトでは、生活の中で直面した切実な問題を、調べ、造形しながら集団で対話的に考え、③彼らなりの解決策を想像力と構想力を駆使して探求している、と分析した。 レッジョ・アプローチのドキュメンテーションには子どもの切実な問題関心を軸に、幼児がイメージや概念、推理を駆使してゆくプロセスが記録されていて、実践のプロセスで保育者が何を考え働きかけたかが追視できる。大人と子ども、子ども同士の相互作用、論理的認識と美的認識の関係も興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まだレッジョ・アプローチを活字情報でしか知らないメンバーが多い。今年度は海外施設の視察ができないことの影響は多大だった。そうした中でも、オンライン研究会を重ねる事で、共同研究の基盤はできつつある。次年度それぞれの研究対象に即して、比較の視野の中で具体的に実践記録の分析をまとめて行く。それら個別のモノグラフが相互に比較できると良い。 太田は明石プランの研究と戦後の神戸大学附属幼稚園の総合活動の展開、国内の新学校系譜の幼稚園の総合的な活動の中で生まれたプロジェクトの分析を、大西は奈良女子大附属の小学校低学年の実践の分析を、織田はお茶の水女子大附属のプロジェクト型の保育を研究する。藤枝は芸能者の子育てを研究してきた視野から、文化財と子どもの関心や志向の育ちの接点を研究する。 さしあたって国内のプロジェクト型の実践史研究を充実させながら、それらとプロジェクト・アプローチの方法の違いを検討し、差異の中から今後の実践の発展の契機を探求する。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、それぞれのテーマに即した研究を展開しながら、それがどのような意味でプロジェクト・アプローチと比較可能なのかを深めてゆく。プロジェクト・アプローチから学んだ視野が、日本のプロジェクト型の実践史を研究するにあたって分析の枠組みを豊かにしてくれることを期待している。 秋以降にスウェーデンに視察にいけたら、その刺激はきっと目下の研究に生きるだろう。しかしそれができない場合にも、プロジェクト・アプローチによる数多くの具体的な実践記録を手がかりにしながら、理論的な検討と組み合わせて研究を深めて行くことを積み重ね、オンラインでストックホルムの実践者、研究者と交流の機会を作りたい。 本研究では、教材の解釈と構成のなかから、子どもの認識や関心の理解、教育目標、指導過程への見通し、リフレクション内容を抽出する。つまり、従来教材・教具の研究は、手段、方法の研究とされているが、その目的⇒手段(教材教具)の研究過程が一方通行ではなく、逆に教材教具の研究(幼児教育では、「環境構成」)が、目標論・内容論や教育の本質観を俎上に載せるものであることが必要だと考える、という分析の方法を選んだ。その方法を貫きながら、実践史研究のモノグラフを積み重ねてゆきたい。 いま、並行してメンバー中の大西、太田は幼小接続問題の資料集を作成している。それは教科の体系とは何か、未分化・総合学習とは何かを学齢の始期前後で検討することも意味している。この問題に対して、日本の私立「新学校」はそれぞれ対照的な選択を行っている。スウェーデンの接続問題も視察しているので、接続問題とも関わらせながらプロジェクト型の実践を検討してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外のレッジョ・インスパイヤードの実践を視察することは、日本のプロジェクト型の実践をより深く理解する上で極めて大切な契機となる。太田はスウェーデン、イギリスの実践家、研究者との信頼関係ができつつあり、引き続き海外視察を若手中堅の研究者とともに共有したいと考えている。しかし今年は、予定していた海外出張が全くできず、その予算が丸々繰越になった。次年度はコロナ禍の状況が沈静化したら、今年度予定していた視察を実現する。 また、国内外の学会出張も、すべてオンラインの発表になったため、旅費を必要としなかった。予算が浮いた分は是非、オンラインで海外の知己と研究交流し、講義講演を依頼するなどの機会に活用してゆきたい。
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