研究課題/領域番号 |
20K02548
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研究機関 | 岐阜協立大学 |
研究代表者 |
藤岡 恭子 岐阜協立大学, 経済学部, 教授 (60457918)
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研究分担者 |
田口 鉄久 鈴鹿大学, こども教育学部, 教授 (50350864)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教育福祉行政 / 保幼小中連携 / 子ども・子育て支援 / アカウンタビリティの相補性 / 教育の地方自治 / 地域学校協働活動 / 教育ガバナンス / 連携カリキュラム |
研究実績の概要 |
本研究は、地域の教育福祉ネットワークの構築をめざして、縦割り行政を超えた連携に関する理論と実践を探究することを目的としている。本年度は、主に以下の調査研究を行った。 (1)A市の3つの中学校区における「保幼小中一貫教育推進事業」に関する聴き取り調査の実施:①各校区の保育園(2園)、認定こども園(1園)の園長への聴き取り、②本事業発足当初からの関係者である退職校長(1人)、退職園長(2人)と対談を行った。本事業の特徴は第1に、校区の教職員によるカリキュラムの共同開発を中核に各部会が組織化され、教育実践の情報交流、研究活動が推進されている点にある。第2に、教育委員会・教育事務所・各公民館の連携により、地域団体や教育機関等との協働体制が組織化され、学校(園)の教育課程が地域に開かれていることである。今後、聴き取りデータおよび収集資料を整理・分析し、連携の意義と課題を抽出する。また、退職園長による各園への訪問指導における「ファシリテーター」機能に着目して検討する。 (2)子ども・子育て支援事業に関する施策と進捗状況の検討:研究分担者は、①X県および各市町の子育て会議委員として、第2期子ども・子育て支援事業(2020~2024年度)の計画・立案に携わった。②同じく、県および各市における「子ども・子育て会議」の委員(学識経験者)として、会議に参加し、進捗状況を確認するとともに以下の課題を整理した。待機児童対策については処遇改善、研修充実・働き方改革等による保育士等の定着促進、就労奨学金の充実、若者への魅力発信等の必要性を指摘した。また、地域子育て支援事業については、多様な保育企画の必要性、一般園における園庭開放の役割の重要性をあげた。放課後児童の問題に対しては施設環境の充実、認定こども園については移行に先立つ保護者・地域関係者・職員への丁寧な説明と十分な準備期間が必要であることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究初年度早々、新型コロナウィルスの緊急事態宣言の発令を受け、県外への外出規制もあり、学校(園)への訪問調査実施の時期を見合わせてきた。研究代表者においては、本研究に着手する以前に、勤務校の前期オンライン授業の成立に終始してしまった感がある。研究代表者と研究分担者との県をまたいでの対面の機会がとれないなかで、前半は主としてメールでのやりとり、夏以降、双方のオンライン環境が確認できたところで、各月2回の定例オンライン会議を行い、研究の進捗状況・方向性について逐次意見交換してきた。本年度後半で、ようやく、3つの園への訪問聴き取り調査、および面談者を少数に限定した対談を実施することができた。しかしながら、その後の訪問調査の実施は、感染症拡大の状況からも自粛せざるを得ない状況にある。 当初の研究計画において、研究代表者は、米国都市学区の「カマー学校開発プログラム」の現地訪問調査の実施を予定していた。また、研究分担者とともに、オーストリアの「一体化保育」の訪問調査の実施も予定していた。しかしながら、感染症拡大に伴う渡航規制により、渡航の見通しが立たないまま、海外調査に関する議論が中座している。 他方、研究分担者においては、県教育委員会・社会教育委員(座長)をはじめ、県下の子ども・子育て支援事業計画推進(県及び4市町委員)、保育・幼児教育の推進(助言者)等、「顔のみえる関係性」を通して助言・提案を行ってきた。各地域・団体においては子ども・保護者・地域住民等が主体となって教育と福祉を連携させて熱心な取組みが行われていた。一方で行政の縦割りシステムが壁となって更なる充実と進展を阻んでいると感じる部分もあった。教育と福祉の基本構造を「連携カリキュラム」として明らかにすることと、関係者の思いや願いを、普遍的な課題へと理論化・実践化していくことが今後の課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、基本的には、以下の2本柱で研究を推進していく。 (1)教育委員会と首長部局の協働による教育福祉ネットワーク構築の実践的課題の検討:①「相補的なアカウンタビリティ」および「分散型リーダーシップ」の理論研究を深め、②子ども・子育て支援をめぐる総合的施策の分析を通して、部局間連携による政策と実践の融合をはかる質の高い発達支援システムを構想する。③国際比較研究により、教育と福祉をつなぐ子どもの発達支援における「教育的価値」をとらえ直し、民営化や市場セクターを含めた多元的な地域連携事業の問題点を明らかにするための理論的・実践的視座を得る。 (2)地域における縦割り行政を超えた横断的・縦断的な協働実践モデルの開発:第1に、①福祉行政と教育委員会の連携、②「認定こども園」における保幼の接続、③保幼小中接続を展望する学校教育・社会教育の連携に関する政策と実践の実態を明らかにする。第2に、地域における保幼小中の教職員・保護者・住民・行政専門職へのアクション・リサーチおよび質的量的調査により、当事者の発達・支援へのニーズおよび実践的課題を明らかにする。 ただし、現場への訪問の機会を積極的につくれないなかにおいては、オンラインによる対話の機会を計画的に創り出していく必要がある。国内におけるオンライン会議の実施にあたっては、現場(先方)のオンライン環境の有無への配慮も必要になる。先方に過度な負担をかけずに、少人数に限定して、研究分担者の大学に訪問いただくなどの方法も工夫する必要がある。海外調査に関しては、先方の研究者とオンライン会議等の定期的な開催を計画的に行う必要がある。感染症の拡大状況により、翌年度の調査実施も困難な可能性があるため、メールによる質問調査やインタビューを行うなども検討していく。最終年度に向けて、渡航のめどがつかない場合には、補助事業期間延長の申請も検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画で、初年度末に実施予定だった外国調査にかかる旅費の支出を計上していたが、コロナ感染症拡大に伴う渡航規制により、次年度使用額が生じた。同様に、国内における県外への移動自粛を含み、国内出張に関する旅費の大幅な削減(学会大会や研究会等はすべてオンライン参加、科研打ち合わせもオンライン会議、訪問調査の自粛)による。次年度に繰り越すが、国内出張に関しては、引き続き、感染症拡大の状況を見据えつつ、逐次、インターネットツールを活用した使用計画を検討していく。国外調査に関しては、適時、状況を鑑み、補助事業期間延長も視野に入れて検討していく。
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