研究課題
2022年度に収集したテューリンゲン州立フレーベル博物館収蔵の手稿に加え、ドイツ陶冶史図書館に所蔵されている手稿を閲覧、読解に努めた。一連の研究によりフレーベルの学校教育学・遊戯教育学の二領域から言語教授構想を抽出した。まずフレーベルの言語教授においては読みの教授より書きの教授が先行すること、その根底には人間の諸力の現出様態との関連がみとめられること、また言語による諸活動は人間関係の構築に伴って表出することが教育の前提となっていることを明らかにした。『人間の教育』(1826)では単に教師の発問と生徒の回答という形式を提示していたが、後年の遊戯教育学においてフレーベルは大人と子どもの対話を提示した。『母の歌と愛撫の歌』(1844)以降、子どもと大人との関わりが読み書きの教授を左右する大きな要素として描出されている。『母の歌と愛撫の歌』は乳幼児期の子どもにどのような言語的環境が望ましいかを提示したものであり、より生活に密着した題材を採用した、子どもに語り聞かせるための文章によって構成された。『母の歌と愛撫の歌』を媒介に子どもと大人との間で時間を共有し、遊びを共有することと、子どもの心身の発達を促すこととが両立しうる点において、フレーベルはペスタロッチ『母の書』(1803)の難点であった機械的な教授を回避する教育的活動を提示した。加えて手稿を参照すると、1840年代後半フレーベルは代父として代子にあてた一通の書簡に4種類の字体を用いて書き送り、読み書き教授の契機を探っていたことが判明した。単に形象としての文字を覚え組み合わせるという言語教授に留まらず、子ども自身が「語りかけられた」ことを思い出し、「手紙を送ってくれた」ことに対する喜び、「文字を通して伝えたい」意欲、そして「文字によって自分の内面を表す」という一連の教育的営為が想定されていることが明らかとなった。
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人間教育の探究
巻: 36 ページ: -