研究課題/領域番号 |
20K02556
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
森 直人 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10434515)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教育 / 福祉 / コミュニケーション / 脱連結 |
研究実績の概要 |
2021年度は以下の2点に焦点化した研究活動を実施した。第一に、20世紀日本において教育/福祉の境界がどのように確立してきたかについての歴史的動態を解明する作業の継続である。昨年度に引き続き、「人のよりよい方向への変化をめざし、うながすコミュニケーション」としての教育と福祉が、この両者以外の医療・保健・司法といった隣接領域とも関連しつつ、多様な概念とそれら相互の概念連関を産出・転形させながら機能領域として自立を遂げていったプロセスを明らかにするため、官庁資料や運動体・実践家が残した文書資料など基礎資料の収集・整理と分析方針の精緻化を行った。昨年度の上智大学グローバル・コンサーン研究所公開シンポジウムで行った報告「教育/福祉へのコミュニケーション論的接近」に加筆した論文を執筆した(刊行は事務手続き上の関係で2022年度になる)。 第二に、実践領域としての教育と福祉の境界をめぐる問題について、専門職協働とガバナンスの観点からアプローチする実証研究を行った。教育領域/福祉領域をそれぞれ対象とする従来の研究では、実践が展開する具体的場面を「ミクロ」レベル、ガバナンスが展開する水準を「メゾ」レベルとして、「マクロ」な社会レベルとあわせた異なる分析水準の問題として対象を分節・措定しがちであった。本研究では、そのいずれも同じ「人びとの実践」として記述・分析していくエスノメソドロジーの方法を援用しながら検討を進めた。具体的には、「新自由主義」として批判的に言及されることも多い民間事業者の活用をともなって推進される専門職協働の場面が、組織論的な脱連結(decoupling)を実現する実践として、したがって専門職の自由裁量の範囲を確保する実践として記述できることを示した。2022年度の学会発表に向けた準備を終わり、発表後には論文化する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の感染拡大状況を注視しながら、研究計画申請時に予定していた教育/福祉実践の動画・録音データにもとづく相互行為分析については次年度に先送りすることにし、官庁資料や運動体・実践家が残した文書資料など、歴史的分析課題のための基礎資料の網羅的収集・整理の完遂と、オンラインによる遠隔作業で収集可能な組織・行政レベルでのデータ分析に特化して研究活動を推進した。その結果、2020年度に発生した若干の研究進捗の遅滞については概ね回復できた。
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今後の研究の推進方策 |
当初研究実施計画に予定していた分析課題のうち、教育と福祉の事業連合の分節と接合にかんする歴史的検討については課題遂行の目途が立ったが、①「個別化・個性化教育」など子どものウェルビーイング尊重を明示的に志向した独自の実践を展開する「学校」、②フリースクール、③校内居場所カフェ、④生活困窮者自立支援法準拠の学習支援事業の現場、⑤民間企業が提供する教育/福祉事業の場、等における教育/福祉実践(相互行為)場面の録画データにもとづく相互行為分析については、調査実施の規模を縮小するか、研究期間の延長も視野に入れて方策を検討する。調査実施規模を縮小する場合は、2021年度に着手した教育/福祉のガバナンス分析に注力した研究活動を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の感染拡大状況を注視しながら、研究計画申請時に予定していた教育/福祉実践の動画・録音データにもとづく相互行為分析については次年度に先送りすることにし、官庁資料や運動体・実践家が残した文書資料など基礎資料の網羅的収集・整理の完遂と、オンラインによる遠隔作業で収集可能な組織・行政レベルでのデータ分析に特化して研究活動を推進した。そのため、とくに旅費の費消が予定より抑えられたことが大きな要因となった。この点については2022年度での集中的な調査の実施のほか、研究期間の延長や代替研究課題の遂行(教育/福祉のガバナンス分析)も念頭に置いた研究費使用を考える。
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