本研究課題の最終年度にあたり、20世紀日本の公教育と福祉レジームの形成過程における教育/福祉の境界の分節と20‐21世紀転換期以降の再編局面とにおける動態について、以下のとおり概念分析にもとづく社会学的記述の作業を進めた。(1)19世紀末から今日に至るまでの約150年のスパンを、教育/福祉の各システムの①「分出」期(19-20世紀転換期)、②「分離」期(戦後改革期)、③「区別と統一」期(1970年代)、④「連携と連動」期(20‐21世紀転換期)に区分しつつ、それぞれの時期における教育/福祉の境界設定にみられる歴史的動態を概観する枠組みを提示したうえで、それをN. Luhmann の機能分化論の視角のもとに位置づける理論化の作業を行なった。(2)その理論化作業で抽出された教育/福祉のコミュニケーション論的定式化を両システムに関連する参照問題として位置づけることをつうじて、公立高校、公設型学習塾、貧困世帯の子ども対象の学習支援、不登校支援、夜間中学校、中学校内居場所カフェ、フリースクールの各フィールドで展開されている実践相互を比較する(等価機能主義的)機能分析を遂行した。さらに、具体的な歴史分析として、(3)上記②の時期の福祉領域において、戦後直後の応急政策から恒常的制度への転換の是非が懸案となっていた「失業対策事業」をめぐる調査・政策立案の過程を対象とする分析、(4)上記④への移行期における教育領域において、制度改革の主要な争点となった「義務教育段階の公立学校選択制」をめぐる論争を対象とする分析、(5)上記②の時期の教育刷新委員会「技能連携制度化」構想と④の時期の教育機会確保法推進運動における「個別学習計画」案とを対比する「教育の機会均等」理念にかんする社会学的概念分析をそれぞれ行ない、福祉領域との境界が問題となる状況下での教育システムの展開過程の具体相を明らかにした。
|