本研究は、「接触領域」、「接触体験」という分析的視点をもとに、東日本大震災で被災した宮城県亘理郡山元町を考察の対象とし、現代の地域社会に生きる人々がどのように民俗芸能を認識し、受け継ごうとするのかという現代的なテーマに取り組むことを目的とした。同時に、現代的な文脈における文化継承のあり方や新たに生み出される芸能を視野に入れ、かつ歴史的経緯を考察の対象に据えながら、学校と地域の相互行為から民俗芸能が刷新され、継承される過程を分析した。 本研究のリサーチクエッションは、次の通りである。①被災地の学校教育における民俗芸能の教授は、現代の地域社会に生きる人々の日常における文化的実践の中でどのように位置づけられ、地縁的にも血縁的にも異なる人々が民俗芸能の実践を通じて新しいコミュニティを生み出していることとどのように関係しているのか、②「接触領域」としての学校と地域社会の双方が関わり合いながら、民俗芸能の継承に力が注がれるとき、そこでは何が「体験」されているのか、そしてそれがその後の取り組みにどう影響しているのか。その一方で、③学校教育で実践される民俗芸能が複雑なアクター(政治的、文化、歴史性)と関わることによって、指導者の教授内容やその方法が取捨選択され、芸能が変容・持続する過程とどのような影響を与えているのか、の3点である。 最終年度は、坂元小学校と伊江小学校との「子ども芸能交流会」の実施(三年間実施)、2019年度から記録してきた坂元神楽保存会、中浜神楽保存会、そして坂元こども神楽の取り組みを、視覚的情報(画像、映像)に音声情報(音楽、声)を取り入れた新しい形の「民族誌」を制作し、地域の公民館および学校において写真展「わたしが残した足跡の先には」の展示を1カ月間にわたって行った。
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