研究課題/領域番号 |
20K02565
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研究機関 | 中央学院大学 |
研究代表者 |
谷口 聡 中央学院大学, 商学部, 准教授 (40636247)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 教育DX / 学習指導要領 / 個別最適化された学び / 個人の要求を基礎にした学び / 教育条件整備 |
研究実績の概要 |
今年度は、本研究が分析対象とする学校制度改革のうち、2010年代後半に構想され、コロナ禍以降に進展している教育DX政策の展開過程とその背景を分析した。特に、首相官邸(成長戦略系会議、教育再生実行会議)、内閣府(経済財政諮問会議、CSTI)、経産省、文科省、自民党文教族及び商工族、経済団体など、多様な主体の政策形成への関与の程度と影響力を分析し、同政策の背景には成長戦略があり、その一環として人材育成及び教育の成長産業化が目指されていることを明らかにした。 加えて、教育DX政策においてキーワードとなっている「個別最適化された学び」と従来の学習指導要領のキーワードである「個に応じた指導」の関連性を中心に、同政策の進展と次期学習指導要領の改訂の関連を分析した。結果、「個別最適化された学び」は、ICTの活用によって子どもの学習を学習指導要領が規定する「資質・能力」という枠組みの中でより精密に分別しつつ、それを確実に修得させようとするものになりうること、そのため、共通の教育内容を標準授業時数分受けて教育課程を修了する(履修主義)のではなく、各自が一定の資質・能力を修得すれば教育課程を修了する(修得主義)という教育課程編成の転換や、同一年齢の子どもが同じ空間で共に学ぶという学級・学年制の再考など、学校制度の抜本的再編=教育DXが目指されているとの仮説を導き出した。 このような教育DX政策は、学習指導要領が規定する資質・能力の枠組みの中で学習と教育のあり方をより画一的なものにし、個人の学習要求を基礎にした学び・教育には反するものとなりうること、したがって、教育政策が目指すべきは多様な人間関係の中で形成される個人及び集団の学習要求に応える教育であり、教育行政はそのための条件整備を担うべきとの問題提起をした。 以上の研究成果を著書にまとめ公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の課題である2000年代以降の学校制度改革の分析のうち、2010年代後半以降のそれについては当初の予定通り、各政策主体の政策提言、政策決定過程の議事録の分析などを行うことができた。他方で、教育政策決定過程の全体像の把握および2000年代と 2010年代の比較については、未着手に終わっている。また、政策決定から10数年を経過した制度改革については、それが各地方自治体で実際にどのように展開したのかを実態調査(関係者へのヒアリング等)する予定であったが、コロナ禍という状況もあり、予定通り進捗していない。
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今後の研究の推進方策 |
まず、この間実行できていない実地調査を実施し、政策決定過程の構造転換が地方自治体における政策形成にどのように影響しているのかを明らかにする。 その上で、これまでの政策分析により浮上してきた「教育行政の固有の役割とは何か」という課題を規範的に探求する予定である。教育DX政策が顕著なように、内閣府(CSTI)、経産省、総務省と文科省が連携・協働して政策を推進する動向が目立っている。また、府省庁間の連携・協働にとどまらず、領域横断的にデジタル化を進めるために内閣の直轄でデジタル庁が新設され、子ども政策を総合的に進めるために内閣府の外局として子ども家庭庁が新設されるなど、行政機関の再編も進行している。2000年の中央省庁再編以降、各政策領域における内閣・内閣府の影響力が強まり、官邸主導と評されてきたが、教育領域におけるその強度は一段高まったように見える。2010年代半ば、首長主導改革や地方教育行政法の改正過程において地方教育行政(教育委員会制度)のあり方が問われたように、現代にあっては官邸主導で進む教育政策・制度改革のもと、中央教育行政の変容をどのように捉え、評価するかが重要な課題となっている。そのため、本研究の最終年度は、これまでの実証研究を踏まえつつ、このような課題を規範的に明らかにすることに取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な支出として予定していた旅費、すなわち学校制度改革が先行する地方自治体及びオルタナティブな教育実践をする学校への実地調査に必要な旅費が、コロナ禍によって支出不可となった。そのため、予定よりも次年度使用額が多くなった。次年度は、このような実地調査に必要な旅費の支出を予定している。
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