本研究は2010年代に展開された日本の高大接続改革と並行してイギリスで進められた大学入学試験改革、いわゆるGCE A-level試験制度をめぐる改革動向とその背景について、各種の調査データに基づいて検討し、日本の改革議論への示唆を得ようとしたものである。当初計画は2020年4月から2022年3月までの3年計画で開始したが、COVID-19の影響により、当初予定していた調査計画を大幅に遅らせることとなり、またコロナ禍において試験が2年間実施されなかったことから、大学教育全体での公正性をめぐる取り組みとして選抜制度改革を検討するように努めた。 2023年度には、特に公正な教育機会実現を目指す方策の一つとして、学生側の苦情申し立て制度の実態を全国データと特定の大学のデータに基づいて分析を進め、試験結果の公正性だけでなく、教育内容やその質保証が苦情申し立ての対象となっていることが明らかとなった。 本研究を通じて、英国の高等教育進学の機会保障をめぐる公正性・公平性をめぐる議論として二つの潮流が確認された。一つがWidening Participationと呼ばれる高等教育機関への多様な集団からの進学機会を保障・拡大していくという取組みとその議論である。もう一つがFair Accessと呼ばれている機会の公正性の担保のために、不利な立場にいる集団に対して、機会拡大のためのアファーマティブな選抜制度を設計するという取組みとその議論である。また、Fair Accessだけでなく、Fair Admissionに注目するべきだという議論に基づき、進学希望者の社会経済的な背景に基づいて、GEC A-levelレベル試験の成績について一般の志願者とは異なる条件を設定するなどといった「文脈に依存した選抜(contextual admission)」が、イギリスで急速に広がっていることが確認された。
|