デンマークにおける「予備的基礎教育(FGU)」の制度創設(2019年8月)に焦点を当てて,デンマークの学習福祉と青年教育政策の現代的展開について明らかにすることが本研究の目的である。新型コロナ感染症の拡大のため,前年度まで現地調査を実施できなかったが,2022年度は9月にデンマークに渡航し,制度発足直後の状況を中心に,関係者への聞き取り調査を実施した。 面会したのは,FGU創設を提案した専門家グループの議長(コペンハーゲン専門職大学校長),FGU学校についての「最初の研究者」を自認する研究者グループ,FGUに統合される生産学校の若者に関するプロジェクト研究を実施中の研究者,組織の一部門がFGU統合された成人教育センターの校長・職員である。 聞き取り調査を通じて,デンマークの青年教育未修了者(「取り残されたグループ」)を対象とする国レベルでの総合的かつ統一的な移行保障をめざす制度として,FGU創設に向けた議論と合意形成が行われ,制度発足に至ったことが明らかになった。ただし,研究者たちからは,各種の教育施設によって独自に積み上げられてきた青年教育未修了者に対する従来の教育経験がFGUの下でどうのように統合できるかという,重大な課題が指摘された。また,上記の議長や成人教育センター長のように学校運営に携わる立場からは,FGUの財政基盤の脆弱さが深刻化していると懸念が表明された。 FGUの発足がコロナパンデミックと重なったこともあり,FGU学校の教育現場は多くの課題に直面し,創設期の対応に追われているようである。国際的にも例のないFGUの挑戦が今後どのような成果をもたらすのか,あるいはもたらさないのか,引き続き注視が必要である。なお,今回の現地調査の成果も含めて,デンマークにおけるFGUの発足までの経過と発足後の状況について,9月に学会報告を行った。
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