研究課題/領域番号 |
20K02588
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
児島 明 同志社大学, 社会学部, 教授 (90366956)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 移民第二世代 / 教育主体化 / 新しい公共性 |
研究実績の概要 |
移民第二世代の教育主体化の過程を理解するにあたり、それが成される場の特徴やその変容の影響を無視するわけにはいかない。とりわけ、昨今のコロナ禍は、移民が暮らす地域のありようやルーツのある国との関係性を大きく変えてきた。コロナ禍の長期化により、移民の生活を支えてきたさまざまな〈つながり〉を維持することが困難になり、それが子どもの学びや育ちに及ぼす影響についてもさまざまな懸念が語られている。パンデミックの状況下、移民第二世代はどのような課題を抱えながら、また、それに対処しながら、次世代の育成にかかわっていくのか。本研究課題の遂行に不可欠な視点としての場の作用があらためて浮上するなか、移民第二世代が暮らす地域の子育て及び就労環境の実際を理解すべく、ブラジル系移民が多く居住する山陰地方のA市においてフィールドワークを実施した。 ブラジリアン・レストランを経営する日系2世の女性と地域日本語教室の開催や各種交流イベントの企画・運営に携わる日本人男性へのインタビューを通じて浮かびあがった地域の実情をまとめると以下のようになる。第一に、A市には大規模な電子部品工場(B社)があり、ブラジル人の8割(約2500人)が派遣会社に登録しそこで働いている。第二に、近年、家族連れの若いブラジル人が急増し、保育所・幼稚園が不足気味である。第三に、子どもを保育所・幼稚園に預けている間、働きたいという母親が多いが、B社には2交代制(12時間勤務)以外の働き方のオプションがないため、就労が困難な状況にある。第四に、B社はコロナ禍への対応として、労働者の生活を厳格に管理している。とりわけ大勢での飲食や県外へのレジャーなどには厳しいペナルティが課せられる。 A市におけるブラジル系第二世代は、コロナ禍により統制の強まる生活環境において、就労や子育てに多くの課題を抱えながら暮らしていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の申請当時には予想できなかった新型コロナ感染の拡大とその長期化により、移動に大きな制約が生じ、当初予定していた他県における移民第二世代の教育支援現場でのフィールドワークや当事者へのインタビューが滞っているのが、研究にやや遅れが生じていることの最大の原因である。 ただ、そうした状況下でありながらも、2021年度は、新型コロナ感染の拡大状況に配慮しながら、当初予定していた調査地の一つである山陰地方のA市を訪問できたことは大きな収穫だった。A市でブラジル系移民と日常的に深くかかわっておられる方々から、かれらを取り巻く就労、教育、子育て、余暇活動、地域生活などの環境およびコロナ禍により影響を受けた諸側面について詳細な話を聞けたことは、今後、研究を進めていくうえで大いに参考になった。 愛知県などの大規模集住地とは異なるA市の実情に触れることにより、コロナ禍は、それが就労状況、人々のつながり方、教育環境などにどのような影響を及ぼしたかについては地域ごとに異なること、また、そこで生じた変化への対応にも地域ごとのヴァリエーションが存在し得ることに気づく契機ともなった。このことは、本研究課題の遂行において、移民第二世代が抱える生活上の課題や次世代育成にかかわる悩みなどを、かれらが生きる場の特徴やその変容に即して理解することがきわめて重要であることへの気づきともなった。 コロナ禍が収束する兆しはなかなか見えないため、県外でのフィールドワークには困難がともない、フィールドの数を増やしていくことには限界がある。しかしながら、A市を中心としながら、その地域特性をさらに詳細に把握したうえで、そこを生きる移民第二世代の経験をそうした地域特性と密接に関連づけながら深く理解することは可能であり、また、望ましくもあるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については、もちろん新型コロナウイルス感染拡大の状況次第というところはあるが、概ね以下のように考えている。 まず、A市を中心に、移民第二世代が暮らす環境を多角的かつ詳細に把握するためのフィールドワークを実施する。同一地域を複数回訪問し、できるかぎり多様な現場で活動する人々へのインタビューを重ねることを通して、就労、教育、子育て、余暇活動、地域生活など、第二世代の生活の組織化に影響を及ぼす諸側面を包括的に理解するよう努める。また、それらの諸側面がコロナ禍によりどのような影響を受けているのかにも注目する。 それと並行して、移民第二世代の教育主体化過程を多角的に解明するためのライフストーリー・インタビューを継続して実施する。その際には、コロナ禍が第二世代自身の現状や将来展望、さらには次世代育成の実践を支える教育観に及ぼす影響にも注目することで、第二世代の経験を場の変容とのかかわりの中でとらえることを心がける。これは、変容する場の中で第二世代が自らをどのような存在と位置づけ、いかなる実践者になり得るのかを理解することであり、「新しい公共性」の創出を検討するうえできわめて重要な作業となるだろう。 上記いずれの課題に関しても、対面的なインタビューが困難である場合が想定されるので、オンラインでのインタビューも含めて可能性を探っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題においては、ブラジル系を中心とした移民第二世代へのライフストーリー・インタビュー、第二世代が暮らす地域の特性を把握するためのフィールドワーク、さらにはかれらが携わるさまざまな次世代育成実践の現場での参与観察を主な研究手法として設定している。しかしながら、新型コロナウイルス感染の拡大と長期化により、他県への移動および継続的な訪問がきわめて困難であったため、予定していた旅費の執行ができなかった。また、対面でのインタビューも困難であったため、インタビュー後の反訳に対する予算執行も滞ってしまっている。 しかしながら、ワクチン接種の効果等によって移動の制約も少しずつ緩やかになり、次年度は当初予定していた上記の調査を計画に即して実施できる可能性は十分にあるため、あくまでも新型コロナウイルス感染の拡大状況をみながらではあるが、対面でのインタビューや対象地域でのフィールドワークを精力的に進めていく予定である。
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