研究課題/領域番号 |
20K02593
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
清田 夏代 実践女子大学, 生活科学部, 教授 (70444940)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グローバル化 / 学校リーダーシップ / 学校ガバナンス / 教職の専門性 |
研究実績の概要 |
2020年度においては,グローバル化と新自由主義的改革が学校ガバナンスおよび学校リーダーシップ像の変容に与えた影響を明らかにするという全体目標の前提として,白書,報告書,法文書等を含めた資料,また,関連する領域の研究論文,文献などを検討し,先行研究として整理し,研究課題を明らかにする作業を行なった。加えて,学校リーダーシップの変容について,日英間での比較研究を行うため,まず日本の学校におけるリーダーシップの裁量権のあり方の変遷を明らかにするため,直近20年間の教育委員会と学校の自律性(主に人事権を焦点とした)に関する改革のプロセスを文献および校長経験者に対する予備的な聞き取りによって仮説を導き出すための作業を開始した。(なお,英国における調査を予定していたが,感染症拡大の影響によって断念した)。 また,「グローバル化」の進展が公教育の課題をどのように変えてきたのかを明らかにするため,研究論文を執筆した。グローバル化がもたらす被教育主体の多様化は,学校および学校が所在する地域社会の社会文化的背景の多様性をもたらし,そのことによりそれぞれの学校が果たすべき社会的機能をも多様化させつつある。こうした状況に効果的に対応し,すべての子どもの教育権を保障するために,学校はこれまでよりも自律的な運営が求められるようになっている。学校の自律性とは校長の裁量権と重なる部分が大きいが,近年の改革においては校長の裁量権の拡大を唱えつつも,実態としては教育委員会による統制を徹底させ,学校の日常運営上の「柔軟性」を排除する方向に進んできたことも事実である。研究論文では初発の作業としてグローバル化における公教育の課題を明らかにしたが,今後日本における学校リーダーシップの裁量権をめぐる変遷を,英国との比較研究として明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,2020年度は,グローバル化と新自由主義的改革が学校ガバナンスおよび学校リーダーシップ像とその役割に与えた影響の全体像を明らかにすること,さらに,近年台頭してきた新たな校長像「エグゼクティブ・ヘッドティーチャー(EXH)」の定義,実態,効果,課題を明らかにすることを目標としていた。後者は主に英国での調査によって明らかにする予定であったが,感染症拡大の影響で英国での調査を断念せざるを得ず,目標が果たせなかった。なお,研究の総括として最終年度に日本との比較を行う計画であったが,日本の状況についての研究を前倒しして開始した。感染症拡大の影響は英国での調査研究を中止に至らしめただけではなく日本国内での研究活動(同領域の研究者との研究交流や学校での調査等)をも大いに制約し,研究活動全体に遅れをもたらしたといわざるを得ないが,2020年度にかろうじて行うことができた研究作業をもとに,2021年度以降の研究計画を立て直し,可能な限り遅れを取り戻す所存である。
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今後の研究の推進方策 |
第一に,グローバル化と新自由主義的改革が学校ガバナンス及び学校リーダーシップ像とその役割に与えた影響の全体像を明らかするための作業を引き続き進める。また,2020年度に開始した日本の学校リーダーシップの状況について,学校訪問,聞き取り調査などを通じ,さらに詳細に明らかにし,最終的に英国の状況と比較対照しながら分析する。その際,校長の専門性の変容を分析の枠組みとする。英国においては,エグゼクティブ・ヘッドティーチャー(EXH)の台頭,学校リーダーシップの極端な若年化などの現象により,学校リーダーシップの「教師」としての専門性が背景として求められなくなりつつあることが判明してきているが,日本においても校長に求められるものが教師としての経験値の高さよりも学校の経営管理の手腕に置かれるようになってきているのではないかという仮説が浮上している。英国の状況が学校教育の新自由主義的ガバナンスの浸透によるものとして説明できる一方で,日本の状況はむしろ官僚主義的統制の強まりによるものであるような印象である。こうした印象を一つの仮説として,日英比較研究の中で事実を明らかにしていく予定である。また,現在の感染症による移動の規制が緩和された際には日英両国における調査を行い,英国においては,EXHの実態,効果,課題などについて明らかにし,日本においては,校長を取り巻く近年の改革の影響や課題,動向を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症拡大の状況により外国および国内の出張がすべて中止になったことによって,当初の予算消化計画が予定通りにいかなかった。未使用の予算は,今後感染症による移動規制が緩和された際に,国内での調査,また英国での調査を実施するための費用に充てる。
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