本研究は困難を抱える子どもを教育の場に包摂する上で、小学校への就学過程にどのような課題があるのかを解明することを目的としている。研究開始前年の予備調査において、共働きの保護者にとって子どもの就学が様々な困難を伴うものであることが解明されており、本研究はその知見を手がかりに、他の様々な状況下で生活する世帯における子どもの就学をめぐる経験とその中での困難を明らかにした。 研究期間中に取り上げたのは以下の4つの状況下にある世帯である。1つは、障害があり特別支援学級に就学することになった子どもを持つ世帯である。2番目はひとり親世帯である。その中には母子生活支援施設を利用していた世帯とそれ以外の世帯が含まれる。3番目はコロナ禍という状況下で子どもの就学を迎えた世帯である。また、4番目は就学の制度の異なるイギリスに住む世帯である。 2023年度はひとり親家庭の調査を引き続き実施するとともに、予備調査を含めた研究全体のとりまとめを進めた。なお、本研究の研究期間の間に「小1の壁」問題が社会問題化し、就学の過程における保護者の困難に関心が向けられた。このため、最終的な分析では「小1の壁」問題として指摘されている様々な困難と対比させて、それぞれの状況下にある世帯にとっての就学の実相を明らかにすることを目ざした。 分析の結果、共働き家庭においては「小1の壁」として指摘されている様々な問題を経験していたが、それ以外にもいくつかの気づかれていない困難が見いだされた。これに対し、障害のある子どもを持つ保護者にとっては、特別支援学級への就学はむしろ支援の充実として受け止められていた。また、ひとり親世帯においては子どもの就学をめぐる問題よりも他の様々な生活上の問題が関心の中心にあった。さらに就学制度が異なるイギリスでは、むしろ小学校に接続する幼児教育施設に通い始める時点に保護者の困難が多くみられた。
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