研究課題/領域番号 |
20K02620
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
佐野 正彦 大阪電気通信大学, 共通教育機構, 教授 (00202101)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Youth Transition to Work / イギリス / パネル調査 / 早期離学者 / 継続教育カレッジ / 若年労働市場 |
研究実績の概要 |
本年度は、①既存のパネル調査データの詳細分析【Understanding Society:The UK Household Longitudinal Study(若年層サンプルを抽出)やYouth Cohort Study for England and Wales(1985~2005)など】を行うことと、②「東ロンドン職業教育・訓練プロジェクト」を実行している継続教育カレッジのうち1校、及び(ないしは)レスターのLeicester Further Education College において、参与観察、若者へのインタビュー調査の準備(調査依頼とスケジュール、学生サンプルの確定など)のため、関係機関を訪問し、打ち合わせをする予定であり、可能ならば、第1次の実地調査を実施する予定であった。 しかし、新型コロナウイルスの蔓延により、渡英ができず、英国の教育機関の緊急事態対処のため実地調査のめどが立たず②は、ほとんど実行ができていない。 このような状況の中で、既存の調査データや研究を再吟味する中で、継続教育カレッジを終えた者の、仕事への移行状況について、以下の点を明らかにした。①最近急速に拡大している大学等、高等教育への進学も視野に入れ、日本のような「まず勉強、それから仕事モデル」ではなく、「働きながら勉強モデル」といわれる、仕事と教育への出入りをともなう、長期にわたって(30歳くらいまでを視野)漸進的に進む仕事への移行実態の解明、②継続教育カレッジから大学進学者の増加の実態、③労働市場における継続教育カレッジ修了者の位置とその経年変化(大卒者や早期離学者に比べた、仕事の内容、仕事への定着度、不安定さ、賃金等労働条件格差)、④これらに伴う継続教育カレッジ内部における就学者の意識や学習実態の多様化、さらに⑤彼らの仕事への意識や仕事への移行状況の多様化と変化、を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、英国の継続教育カレッジの実地調査を目的の一つとして設定していたが、新型コロナウイルスの日英での蔓延により、渡英ができず、調査対象のイギリスの継続教育カレッジ自体も緊急事態への対応を余儀なくされており、調査打ち合わせのための訪問や予備調査が実施できなかった。 しかしながら、既存の調査や研究を活用して、現在イギリスにおいて急速に進む、大学進学率の急上昇、そのことによる学歴志向の高まりの中で、①継続教育カレッジと中等教育学校の関係の変化、②継続教育カレッジの内部における、大学進学者の増加とそれに対応した教育内容の変化、③従来のように進学を志向しない若者のための職業教育の現状と変化、④社会的包摂の対象となるような学生の実態と彼らのための教育内容の実際と変化について、明らかにしつつある。 かつて、英国は、他の欧州諸国に比べて義務教育後の就学率が最も低い国の一つでありつづけ(1980年代半ばでも17歳の就学率は50%を下回る)、また、中等教育段階におけるアカデミックと職業教育の制度的、内容的分離が際立っていることなどが特徴であった。したがって、継続教育カレッジは、もっぱら職業教育・訓練を提供し、中等学校から大学というルートとは交わることがなく、独自の位置と役割を確立・維持していた。しかしながら、1980年代半ばより、後期中等段階の教育・訓練の実質義務化が段階的に進められ、また、大学の進学率が急上昇したことにより、継続教育カレッジを経て、職業資格を利用して大学へ進む者が急拡大している。このような学歴志向の波と産業構造や労働市場の構造変化が、若者の就学や就労意識に大きな変化をもたらし、継続教育カレッジの教育にも大きな影響をもたらしている。本年度は、この、高学歴化が進む中での、継続教育カレッジ自体の変化の実態と、そこを経由する若者の仕事、大学への移行実態についても解明を続けた。
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今後の研究の推進方策 |
渡英のめどがいまだ立たず、英国の実地調査がいつ実施できるかも不透明なため、当面は、若者の仕事への移行を経年追跡している既存のパネル調査データの詳細分析(Understanding Society:The UK Household Longitudinal Study(若年層サンプルを抽出)やYouth Cohort Study for England and ales(1985~2005)など)を更に進める。英国以外の他の欧州の実態も視野に入れ、移行に関するパネル調査の比較・分析の対象国を広げつつ、他国に比べた場合の英国移行実態の際立った特徴である、男性の非正規からの正規雇用への大幅な移行の実態とその促進要因、女性の特徴である、早期の妊娠、子育てによる(10代の妊娠が欧州で飛びぬけて高い)、労働市場からの離脱、周縁化等について、既存調査データから詳細に分析を進め、仮説を導く。それをもとに英国の継続教育機関の実地調査が可能になった時のための、アンケートやインタビューの再設計をし、その仮説の実証を行うための質問項目や方法についての吟味、見直しを進めておく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において実施できなかった、英国への渡航による実施調査の準備と調査の遂行(第1次・第2次)を、渡英が可能になり次第、実行する。「東ロンドン職業教育・訓練プロジェクト」を実行している継続教育カレッジのうち1校、及び(ないしは)レスターのLeicester Further Education College において、参与観察、若者へのインタビュー調査の準備(調査依頼とスケジュール、学生サンプルの確定など)のため、関係機関を訪問し、打ち合わせをする。また、準備が完了次第、調査本体を実行するために、英国へ渡航し、継続教育カレッジの、スタッフと学生に、直接インタビューするとともに、アンケート調査も実施する。 また、レスター大学の社会学部のJason Hughes教授らと、若者問題、若者と仕事についての研究会を実施する。
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