研究課題/領域番号 |
20K02634
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研究機関 | 十文字学園女子大学 |
研究代表者 |
山下 倫実 十文字学園女子大学, 教育人文学部, 准教授 (30514799)
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研究分担者 |
加藤 陽子 十文字学園女子大学, 教育人文学部, 教授 (40409701)
石田 有理 十文字学園女子大学, 教育人文学部, 准教授 (00618168)
布施 晴美 十文字学園女子大学, 教育人文学部, 教授 (00227505) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 夫婦関係 / 育児ストレス / 親アイデンティティ / 育児サポート / 夫婦間サポート / 父親 / 母親 |
研究実績の概要 |
2022年度については,2020年度からの研究の遅れを取り戻すべく,①育児サポートの不一致が育児ストレスに及ぼす影響,②親役割の受容を促進する夫婦間サポートの仕組みの両方について検討するための調査を実施する予定であった。5月には倫理審査の申請を行ったが7月末まで許可が下りず,その後依頼予定であったWEB調査会社からもペアデータの回収率が見込めないという理由で調査の実施が困難になった。しかし,今年度に入って調査実施の目途が立ち,調査の時期や予算等について最終確認を行っている。また,変更となった研究方法について再度倫理審査を受ける予定である。 上記のように,予定していた調査は実施できなかったが,2022年度には,2021年度に学内の助成金を得て実施した調査データを分析し,中学生以下の年齢の子どもを持つ母親を対象に,母親の親IDの獲得過程と夫婦関係との関連について検討を行った。その結果,親IDの肯定的な側面については,子どもの年齢にかかわらず,夫婦関係の良好さと強い関連があった。また,児童期後期以降は,夫婦関係が良好であるほど親としての不安が減少する傾向がみられ,良質な夫婦関係が不安定な親IDを抑制する可能性が示唆された。また,夫婦の関係性評価が育児感情を介して親IDに影響を及ぼす影響過程について検討を行った結果,児童期後期から夫婦の関係性評価が育児感情を介して親IDに及ぼす影響が大きくなることが確認できた。これらの検討は,2022年度に実施予定だった父親への支援モデルを検討するにあたり,夫婦の関係性評価をいかに乳幼児期から良好に維持することが重要かを示す1つの根拠であり,今後のプログラム作りに役立つ知見であると考える。 2023年度については,早急に2022年度に予定していた調査を実施する(7月予定)。また,このデータの分析結果を基に支援モデルの検討に入ることを予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要でも述べた通り,本研究課題を進める前提となる大規模調査面接(2020年度)のコロナウィルスの感染拡大による遅れから始まり,2021年度には共同研究の枠組みを大きく変更せざるを得ない事態の発生,さらに2022年度の調査実施の延期により,計画全体に遅れが出ている。既に,本課題の調査実施に向けて,育児サポートの不一致や親役割の受容を促すサポートを検討する調査用紙の作成は終了しており,後は産後3年未満の夫婦300組を対象とした調査を実施するのみである。 2022年度は,中学生以下の年齢の子どもを持つ母親を対象とした,母親の親IDの獲得過程と夫婦関係との関連に関するデータについて分析を終了し,これらの結果は既に本学の紀要論文として発表されており,今年度の日本心理学会でも引き続きその成果について発表予定である。これらの研究で得られた夫婦の関係性が親IDにどのようなプロセスを経て影響するのか,どの時期に介入するのが効果的なのかを示唆する結果は,本課題における父親を対象としたプログラム検討にも十分に活用されうるものである。今後,2022年度6月までに計画していた調査をまとめて実施することで,2023年度に予定している父親を対象とする出産前教育プログラムの計画・実施に向けて,これまでの知見を整理する予定である。 以上をふまえると,調査の実施はやや遅れているものの,その準備は滞りなく進んでおり,今年度は本研究課題の目的に沿った調査が円滑に進められ,論文の執筆も可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には,2020年度,2021年度に予定していたWEB調査を早急に進める予定である。ただし,本研究課題に遅れがあり,①育児サポートの不一致が育児ストレスに及ぼす影響過程,②親役割の受容を促進する夫婦間サポートの仕組みの2つを明らかにするための調査を1回にまとめて実施することとする。その場合には,夫婦に参加していただくWEB調査の調査方法をより信頼性の高い方法に変更し(マッチングIDを付与し,夫婦別々に回答できる方法など),分析後に,親になる過程で有効だった夫婦間サポートに関する半構造化面接を実施するなど,研究の質が落ちない工夫をする。WEB調査の実施方法については,既に業者との打ち合わせを終えており,実施方法や予算,調査期間などについて詳細な部分まで計画できている。最後に,2023年度後半には2023年度前半の調査で得られたペアデータを分析し,論文を執筆する予定である。 また,今年度は研究成果に基づく支援モデルの作成を行っていく予定である。これまで,①夫婦の関係性評価が良好であることが,幼児期から青年期前期までポジティブな親IDを支えること,②育児期の夫婦関係および親IDの形成には、父親が子どもの世話を行うという直接的育児行動よりも母親に対して支援する間接的育児行動が重要であること,③男性側の親アイデンティティが否定的な場合には,妻側の育児ストレスにも影響し,夫婦関係も悪化することなどを明らかにしてきた。今年度の夫婦間のサポートに関する調査結果をふまえ,これらの知見を整理し,子育てにおける母親へのサポートという側面的支援を夫婦間で擦り合わせるための父親を対象とした出生前プログラムの開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大のため,学会が全てオンライン開催となり,想定していた旅費が発生しなかったため,未使用額が生じた。また,2020年度にコロナ禍で出産1年未満の子どもを育てている夫婦に対面による面接を行うことができず,本研究課題の前提となる質的研究が大幅に遅れた。それに伴い,2021年度,2022年度と実施予定だったWEBによる質問紙調査を実施することができなくなり,その分の予算を使用することができていない。さらに,このような事態となり,関連する書籍も購入することができず,まだ使用していない。 2023年度の7月までにWEB調査を実施する予定としており,2021年度から使用していない調査費用については2023年度に予算執行する予定である。それと関連して,研究を進めるための資料を購入する必要がある。学会については,今年度は対面の開催もしくはハイブリッド開催となっているため,適切に使用していく。今年度までの使用していない旅費については,科研費申請基準にのっとり研究費に振り分けできる部分は,他学会への参加費等に使用し最新の知見を集める,研究者との打ち合わせや専門的知識の供与を受ける,調査の分析結果を裏付ける質的調査を実施するなど,研究遂行のさらなる助けとなるよう使用する。
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