研究課題/領域番号 |
20K02635
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
井口 眞美 実践女子大学, 生活科学部, 准教授 (60550796)
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研究分担者 |
近藤 幹生 白梅学園大学, 子ども学部, 名誉教授 (80389981)
内山 隆 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (40389648)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 保育の質向上 / 評価指標 / エピソード記録 / 10の姿 / 保育プロセス / 保育者の関わり |
研究実績の概要 |
現行の幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領(保育の3法令)では、子どもの育ちをふり返る具体的な視点「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(=「10の姿」)」が示されている。この「10の姿」は、子どもの育ちの方向性を表し、保育実践をふり返るための視点として示されているものである。保育現場においては、保育の方向性がわかりやすいとの意見がある一方、時に到達目標として誤解されやすいとの危惧もある。 そこで、本研究においては「10の姿」を保育現場ではどのように活用しているか、課題や疑問点は何かについての実態調査を行った。加えて、小学校1年生のスタートカリキュラムにおける「10の姿」の活用に関して2か年にわたる調査を行い、小学校入門期における「10の姿」の活用の現状と課題についても明らかにした。結果として、「10の姿」が到達目標となりがちである、「10の姿」を小学校の各教科学習やカリキュラムマネジメントに活用するのは難しいとの実態が明らかになった。 この結果をふまえ、「10の姿」を“子どもの育ちを見とる視点”としてより有効に活用するためには“保育者の関わりの視点”を関連付けた評価指標が必要であると考え、評価指標を作成することを目的として研究を進めた。“保育者の関わりの視点”に関しては、これまで研究代表者が行ってきた研究成果をもとに一覧を完成させた。この“保育者関わりの視点”と“子どもの育ちの経緯を見とるための「10の姿」の視点”を関連付けることで、保育プロセスを分析的に評価することができると考えている。 なお、保育プロセスを向上させるためには、数的な基準を設けて評価を行うのではなく、エピソード記録により保育を言語化することが大切だと考えている。そこで“子どもの育ちの経緯”と“保育者の関わり”をエピソード記録により記述することを重視した形の評価指標を完成させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに調査した保育の質及び保育評価に関する先行研究に基づき、関係の深い国内外の取り組みを文献により調査したり、近隣の保育施設の視察を行ったりすることで、我が国の保育に適した保育評価の在り方を調べた。また、保育現場と小学校現場との評価観の違い等についても最新の実践研究の調査内容を補足し、エピソード記録による質的評価のための評価指標開発への示唆を得ることができた。 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(=10の姿)」の活用の実態調査に関しては、保育現場における「10の姿」に関するアンケート調査(保育の実践、要録や個人記録の作成、保育のふり返り、保育計画の作成、幼保小連携会議等の場面での活用状況及び課題に関する項目)を実施した。加えて、小学校1年生担任による「10の姿」を活用したスタートカリキュラムの作成・評価(カリキュラムマネジメント)を実施し、小学校の実態調査を行った。 「10の姿」を有効に活用するためには、0歳児から小学校1年生までの年齢ごとに“「10の姿」に至るまでの具体的な子どもの姿”を明らかにする必要があると考え、事例収集を行った。先行研究による調査は順調に進展したが、乳児(0~1歳児)の実態調査に関しては、次年度の課題とした。 これらの研究結果を踏まえ、“子どもの育ちを見とる視点”としての「10の姿」と27項目の“保育者の関わりの視点”を関連付けた評価指標を完成させた。そして、保育現場におけるアンケート調査に関する論文1本、報告書1本、小学校のカリキュラムマネジメントに関する論文1本を投稿し研究成果を公表した。更に、研究のまとめとして、著書を刊行し、広く研究報告を行うことができた。 実施が叶わなかったのは、国内外の現地視察である。研究計画では、調査済の保育評価に関する先行研究を国内外の現地視察により確認することにしていたが、コロナ禍において実施ができていない。
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今後の研究の推進方策 |
海外調査旅費として計上していた予算を使用することができなかったため、2023年度は、計画を変更し、研究のまとめとして、学生・保育者・小学校1年生担任が活用しやすい評価指標のパンフレットを作成することを計画している。また、0歳児から小学校1年生までの年齢ごとに“「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」に至るまでの具体的な子どもの姿”を明らかにし、評価指標の作成に活かしたが、乳児に関する調査データ数を更に増やし、信頼性を高めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
3年間の研究計画の中で、海外の保育実践を調査するため、旅費の予算に計上していたが、コロナ禍において実施が不可能となったため、研究費を使用できなかった。同じく、研究分担者の所属する北海道教育大学義務教育学校前期課程の第1学年における実施調査も、研究代表者が現地に赴くことができず、小学校1年生担任と研究分担者に依頼をして実施したため、旅費を使用していない。次年度は、これまでの研究成果で得られた知見を活かし、新しい保育評価指標、保育者等が活用しやすいパンフレットの制作費用に充てる。また、乳児の保育指標を検討するためのデータが不足しているため、その調査費用に充てる予定である。
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