研究課題/領域番号 |
20K02639
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研究機関 | 常葉大学 |
研究代表者 |
石山 ゐづ美 常葉大学, 保育学部, 教授 (70541704)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | インフォームド・アセント / 幼児 / アセント能力測定尺度 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,開発中のアセント能力測定尺度をまず教育分野への応用によって標準化し,次に医療分野へと適用してその実用性を検証すること,さらにこの尺度を子どもが参加する研究全般に利用可能な形式として公表することである。子どもがこれから参加する研究やこれから受ける検査等について,その理解力に応じた分かりやすい説明を受け,参加への賛意を表して臨む,あるいは不参加の意思が尊重されるためにこの尺度は標準化され,用いられる。 2021年度は,国外の生命倫理学の専門家からの指摘を参考として,主に以下の3点に関する検討を行い,開発中のアセンと能力測定尺度をさらに精査した。 (1) 尺度の英語名とその解説について修正を行なった。能力という日本語の英語訳としてこれまでcapacityを使用していた。しかし,この語は法的に認められた自己決定能力に使用される用語であり,本研究で測定する能力とは慎重に区別する必要があるとの指摘を専門家から受けた。文章表現としてはabilityに置き換え,尺度英語名:Instrument to Assess Children's capacity for Assent から,capacity forを削除し,Instrument to Assess Children's Assent と修正した。 (2) 尺度の妥当性に関する考察を深めた。研究に関与した臨床心理士及び言語聴覚士が,尺度開発にどのように貢献したか,それが尺度の内容的妥当性(content validity)をどのように高めているかという専門家からの指摘を受けた。尺度が真にアセント能力を測定できているかについて,臨床心理士及び言語聴覚士と共同で行った開発過程を振り返り,内容的妥当性の考察を行なった。 (3) データ分析方法の修正を行なった。専門家からの指摘を受け,4-6歳児を対象とした調査のデータ解析方法を見直し,補正を使用した多重比較テストにより4歳児と5歳児のアセント能力に差がみられることを明示した。結果の表示についても修正を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の第一目標である,教育分野でのアセント能力測定尺度の標準化を達成するためには,さらに研究協力者を募集し,多数の幼児に対する面接調査を行い,適切なサンプル数を確保しなければならないことは明確である。研究の計画において今年度は,幼稚園児200人の協力を得て,尺度を用いた半構造化面接調査を実施し,分析により信頼性と妥当性を検証することが予定されていた。 しかし2020年度に引き続き2021年度も,新型コロナウイルス感染症の蔓延という実態及び感染拡大予防を重視する社会情勢により,研究協力園への研究依頼ができず,実施見合わせ・延期となったまま調査は実施されなかった。 このような理由により,今年度は前述の通り,現在までに入手しているデータを用いて尺度の精査を行う研究にとどまらざるを得ず,研究の進捗は予定よりやや遅れる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は,滞っていた2020-2021年度の2年間の調査活動を実施することを第一に掲げ,以下に示す3項目とする。 (1) 教育分野:4-6歳児を対象とする調査により,幼児用アセント能力測定尺度を標準化する。幼稚園児200人の協力を得て,尺度を用いた半構造化面接調査を実施し,分析により信頼性と妥当性を検証して,教育分野におけるアセント能力測定尺度を標準化する。 (2) 教育分野:アセント能力測定尺度を,社会応用が可能と国内外の研究者に認められる尺度にする。そのために,アセント能力測定尺度開発をテーマとする研究論文を国際的研究誌に投稿することを継続する。国外の生命倫理学専門家からの査読を受け,指摘を参考として研究内容の修正を行い,研究誌への掲載を目指す。 (3) 医療分野:アセント能力測定尺度をゲノムコホート研究に参加する子どもに応用し,実用化を図る。2021年度より5年間の予定で,「ゲノムコホート研究でのインフォームド・アセント用ICT資材開発と評価に関する研究」に参加している。この研究との協同にあたり,まず,ゲノムコホート研究に参加する小学校1~3年生に活用できるアセント能力測定尺度への改編を実施する。次に,小学生用アセント能力測定尺度を使用した実践を通して,尺度の修正を行う。さらに,アセント用ICT資材の有用性の実証を通して,医療分野への実用化研究に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延という事実及び感染拡大予防を重視する社会情勢による。幼児を預かる保育施設は,保護者の就労を支援するため,感染対策を厳格にしながら開園を続けていた。しかし,送迎の保護者も園内に立ち入りできない厳戒体制であったため,また感染予防に甚大な労力を費やしていたため,研究者が研究のために立ち入ること及び研究への協力を依頼することができなかった。これらのことから,幼児を対象とする対面調査は実施見合わせとなり,2020年度から延期となったまま2021年度も実施されず,結果として旅費,人件費・謝金を使用することがなかった。 さらに,参加を予定していた国内学会及び国際学会はオンライン開催となったことから,旅費を使用する必要がなかった。 このように,旅費,人件費・謝金,その他全ての費目において当該年度は使用を控え,社会情勢が改善される見込みの次年度に使用するよう計画を変更したため,次年度使用額が生じたものである。 次年度は幼稚園での調査実施に関する諸経費が必要である。加えて,「ゲノムコホート研究でのインフォームド・アセント用ICT資材開発と評価に関する研究」に参加するため,これまで計上していなかった諸経費の使用が見込まれる。
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