研究課題/領域番号 |
20K02697
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研究機関 | 岐阜工業高等専門学校 |
研究代表者 |
今田 太一郎 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (40300579)
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研究分担者 |
青木 哲 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (80321438)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 環境刺激装置 / 重症心身障がい児 / ピアジェ / 認知の発達 / 刺激 / 遠隔コミュニケーション |
研究実績の概要 |
環境刺激装置(以下、E.M.D.)は、重症心身障がい児(以下、重症児)の認知の発達を促すことを目的とした空間装置として立案された。本研究ではこれまでに重症心身障がい児施設(以下、重症児施設)、訪問介護ステーションと連携して、収集した重症児の挙動や様々な刺激への反応と障がいの状態に関するデータとピアジェの理論を土台とした認知発達の観点からの分析結果、及び共同研究者が収集した重症児施設における光・温熱環境に関するデータの分析結果に基づきE.M.D.を具体化してきた。 E.M.D.は段ボールなどで構成され、傾斜や凸凹感、素材の質感や揺れなどの形態特性、M.S.F.に組み込んだスピーカーや匂いなどにより、バランス感、皮膚感、聴覚、嗅覚などに働きかける多様な刺激を発生させる多重刺激床(M.S.F)、仮設の紙管フレームに布を組み込み、サーキュレータで風を発生させ、布をゆらゆらと動かす装置であるWind Frame、IoT照明や映像機器(プロジェクター、ホワイトボード)、マテリアルといった複数の再生システムによって構成され、シナリオに基づいて再生される多様な刺激によって様々な場面の体験を実現する装置である。このE.M.D.は、統合された一つの空間装置として機能させるだけでなく、分解して生活環境の中に埋め込むことで、重症児がより多様な刺激を受け、認知の発達を促されながら暮らすことの可能性については以前の研究において指摘した。また、装置の一部を利用して、刺激要素を再生して活用することも可能である。 現在は作成したE.M.D.を実際に重症児の生活空間に組み込み、使用し、介護者などによる使いやすさの評価、重症児の刺激に対するリアクションから読み取れる刺激が認知発達に及ぼす影響をE.M.D.にフィードバックする段階に差し掛かっており、このフィードバックを通じて装置の完成度を高めようと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
E.M.D.の開発は、複数の仕組みを組み合わせて、実際に様々な刺激要素によってシーンを再現する段階まで進んでおり、実際に被験者を対象として活用し、重症児のリアクションや使用上の課題を把握し、E.M.D.の開発にフィードバックする段階に進める必要があるが現状では、進められていない。 開発の停滞要因の一つとして、コロナ禍において、連携してきた福祉施設との関係を維持できない状況が生じたこと。今ひとつにはIoT機器やタブレットといった複数のハードを操作し、シナリオを再現することの分かりにくさ、難しさ。さらにダンボールにより軽量に作られているとはいえ、1m×1.6m程度のボリュームを有する多重刺激床の取り扱いの困難さといったE.M.D.の使用上の問題が考えられる。 そこで令和4年度の研究を進めるにあたり、環境刺激装置の研究・開発フレームの再検討を行なった。 E.M.D.の開発を使用段階に進めるには、重症児を対象とした福祉施設、在宅の重症児をケアする家族、介護士がE.M.D.について理解し、使ってみたいと思えるように分かりやすく伝える必要がある。そこでこれまでに開発したE.M.D.のソフトの充実を図ると同時に、ホームページの作成を念頭に、分かりやすい操作方法のマニュアルについてhtml形式を用いた2次元データ及び、操作方法を解説する動画も作成した。更に遠隔システムを利用した仕組みの説明や操作についてのアドバイスを念頭におき、WEBカメラとスピーカーを用いた遠隔ワークショップを実践した。 加えて、共同研究者が重症児入所施設を対象として全国を対象重症児の生活環境における環境特性と施設による評価についてのアンケートを実施し、環境刺激に対する施設の意識を把握し、併せて環境刺激装置の紹介を行い、活用についての関心を尋ねたところ、7施設程度関心を示した施設があった。
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今後の研究の推進方策 |
現在、研究は作成したE.M.D.を実際に重症児の生活空間に組み込み、使用し、介護者などによる使いやすさの評価、重症児の刺激に対するリアクションから読み取れる刺激が認知発達に及ぼす影響をE.M.D.にフィードバックする段階に差し掛かっており、このフィードバックを通じて装置の完成度を高めようと考えている。しかし、これまで連携を図ってきた施設は、入所者の障がい特性と研究内容の整合性に問題が生じたこと。コロナ禍の影響でアクセスが困難になったこと。などから、新たな連携施設を見つける必要がある。これまでE.M.D.の一部である多重刺激床や設備を考えると研究者の拠点とする東海地区が妥当であると考えていたが、その場合、連携する施設や在宅環境の可能性が限定されるため、次の段階へ開発を進めるには、より広い地域を対象に連携施設をサーチする必要がある。令和4年度からWWWや遠隔コミュニケーションを活用し、介護者がE.M.D.に関して理解しやすく、使いやすい仕組みを構築することに取り組んできたが、令和5年度は更に以下1)から5)の視点を基に開発を進め、令和4年度の研究を通じて把握した施設を対象として実際の活用を試みる。 1)E.M.D.の全体像及び各部の構成について分かりやすく伝える。 2)WWWや遠隔ネットワークの活用により、IoT機器の操作方法について分かりやすく伝える。 3)マテリアルなどに関して、何をどのように用意できるのかイメージしてもらう。 4)シナリオを含めたE.M.D.を構成するシステムは、複数の仕組みに分解して使用可能であるという特性を有しており、状況に応じて部分的に利用してもらうことが、E.M.D.の活用を促すには有効であると考えられる。そのためには機能の一部のみの利用を分かりやすくイメージしてもらうことが必要になる。 5)WWWを用いて音声や映像、マテリアル(切り絵の型など)の実データを提供する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ渦の影響、及びE.M.D.建築やI.o.T.機器操作に関する知識を持たないを介助者などが操作することの困難性が明らかになったという研究上の課題によって、研究のフレームの検討の必要性が生じたため、研究がやや遅滞した。その結果、連携施設との直接的コミュニケーションのみでなく、WWWや遠隔コミュニケーションを用いたE.M.D.及びその操作方法の理解を促す仕組みづくりを研究に組み込むこととして、当初令和4年度に予定していた新たなE.M.D.製作を取りやめ、令和5年度に先送りしたため、材料、機材の購入予定分について次年度使用額が生じた。 令和5年度は改めてWWW(ホームページ)に掲載する情報、実データの製作、連携先との遠隔コミュニケーション環境の作成、これらを踏まえたE.M.D.の再デザイン、製作及び、フィードバックを反映した追加製作に次年度使用額及び、当初の令和5年度予定額を充てるとともに、連携先への調査、ワークショップ及び研究発表に経費を使用する予定である。
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