研究課題/領域番号 |
20K02756
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
京免 徹雄 筑波大学, 人間系, 助教 (30611925)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | キャリア教育 / ポートフォリオ / 学級活動 / 意思決定 / キャリア・カウンセリング / 授業研究 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、キャリア・ポートフォリオの活用方法について日本・米・仏の3ヶ国を比較することで、多様な社会的背景をもつ児童生徒が時間的展望をもって自律的に人生の物語を紡ぐことができるしくみを創出することである。 本年度は、日本におけるポートフォリオの活用領域である学級活動に着目し、アメリカを中心とする海外研究者からみた特質を解明した。学級活動には、社会性の育成とともに、個性の抑圧と発達という矛盾する機能が見出されている。その境界線は、学級を特定の価値に向けて同化する集団と捉えるか、個人の差異を認めて価値を創造する集団と捉えるかにある。個人と社会のウェルビーイングの実現には、1人1人の多様性を包摂した上で、生活の中でそれを互いに活かせる集団づくりと、意思決定に向けた支援が必要である。 欧米の合理的意思決定と異なる協同的意思決定は、進路指導が「職業・家庭科」から学級活動に移行された1960年代に早くも見出せる。その独自性は、自己と進路をマッチングする過程において、民主的な雰囲気の中で個人の課題を集団思考することで、連帯的自律性を高めることにある。そのためには、教師によるキャリア・カウンセリング(対話)が不可欠であるが、支援技術は実践知にとどまってきた。学級活動の授業分析から抽出された教師の対話的関わりの手法は、「過去の経験を肯定する」「肯定した経験をつなげる」「つなげたものを語らせる」であり、「価値付け、つなぎ、語らせる」理論として定式化できる。 こうした支援技術を高めるために、教科外活動で授業研究が行われているのも日本の特徴である。国際的には認知的な題材に焦点を当てたものが多いが、児童生徒の意思決定能力は非認知的スキルの1つである。事例分析の結果、非認知学習の授業研究には、教師による事前の視点共有、および意見の可視化が有効であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
フランスとアメリカの比較から、日本におけるキャリア・ポートフォリオの活用方法の特質を明らかにするとともに、授業分析を通して教師のもつ支援技術を可視化し、さらにそれを体系的に高めていく研修方法を提示できたことが、3年目の到達点である。また、その成果について2つの国際学会で発表し、世界に向けて発信することもできた。 1年目、2年目と合わせると、日本およびフランスにおけるキャリア・ポートフォリオに関する調査はおおむね完了できた。一方で、新型コロナウィルス感染拡大の影響で長らく海外フィールドワークができなかったこともあり、アメリカに関しては十分な調査ができていない。また、、「研究実施計画」で最終年度としていた3年目には、各国の調査結果を一覧表にまとめ比較した上で、多様な社会的背景をもつ児童生徒が時間的展望をもって人生を歩むことができるポートフォリオの活用モデル、および学級活動の授業案を作成することを予定していたが、実現に至らなかった。このような理由から、補助事業期間の延長を申請し、承認された。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現時点で不十分であるアメリカにおけるキャリア・ポートフォリオ活用方法の調査・分析を実施する。その上で、これまでの調査結果について、①教員によるポートフォリオの活用とカウンセラーとの連携、②カウンセラーによるガイダンス・カウンセリングにおける理論の応用、③生徒の多様性、特にリスクを抱えた児童・生徒へのアプローチとその成果、④小・中・高等学校をつなぎ時間的展望をもたせるための工夫とその成果、という4つの視点から整理して各国を比較する。その上で、ポートフォリオの活用モデル、および学級活動の授業案を作成し、最終成果を国内外の学会で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外でのフィールドワークが実施できていないこと、国内外での学会が全てオンライン開催になったこと、成果報告サマリーを作成できていないことなどにより、次年度使用額が生じた。海外調査のための旅費、および学会が集合形式で開催される場合には、研究成果公表のための旅費として使用する。また最終的な研究成果をまとめた成果物の印刷費としても使用予定である。
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