最終年度では、令和4年度と5年度に実施した試験授業について分析、考察を行った。その結果は、「国語科メディア教育における対話的活動の検討―写真についての話し合いをどう捉えるか―」(国語国文学報、82集)として、論文にまとめた。試験授業については、各年度1単元、合計10時間実施し、資料の収集を行った。考察では、メディアとしての写真についての話し合いを捉える観点として、①写真内の存在や物質を規定、②写真に対する感情的な反応、③経験的な理解の反映、④意図的な脱文脈、⑤ミニ・ストーリーの構成の5点を導いた。また、教師が支援することができるのは、話し合いが停滞したり対立したりするグループについて、調整が必要だと思われる場合であり、それを可能にするためにも、上述の5点から個々の話し合いの参加者の特性などを把握することが必要だとまとめた。 本研究の研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、SNSの利用規約の話し合いについて捉えた実践と考察、また、原理的な検討としてイギリスのカリキュラム論の考察や、デビッド・バッキンガム『メディア教育宣言』の翻訳・出版、高等学校の「現代の国語」における教材の考察である。なかでも、令和4年度より開始された新科目「現代の国語」における評論文教材には、メディアに関わる教材が多数採録されていること、また、とりわけAI(人工知能)に関する教材においては学習者を議論する存在として定位することが重要である点を明らかにした。これは『メディア教育宣言』に書かれるメディア教育の原理にも通底する考え方である。これら期間全体を通じて実施した研究の成果により、国語科におけるメディアの教育は、対話を中心とした活動を仕組んでいくことを原理とし、対話の転換点を精緻に捉えることで進められていくことであることを確認した。
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