本研究はこれまで初等教育における防災教育のための地学モデルの開発と評価について追究を行ってきた.現在行われている理科教育の中での水による防災教育は,単元「水の流れの働き」の学習の中で行われてきたが,流水の基礎的な原理と,大量の水による自然災害がもたらす被害については,実際の結果のみが強調される傾向がある.防災に対する児童の理解を促進するためには,段階を踏んだ基本的な原理の言及が必要である.そのために3つのモデルでその解決を図った. 1つめのビジュアルモデルに関して,過去に生じた実際の画像や記録・資料をもとにしながら現地を訪問し,地形的特徴や当時の雨量や水位,決壊した堰堤や堤防,内水氾濫した地域,河川勾配,地質等を総合して記録した.具体的には実際の被害状況を上記の様な視点から詳細に観察して地形図等に記録するとともに被災された住民の方々の話を総合して,災害が生じた当時の様子をなるべくビジュアル的に再現できるようにした.特にこの研究期間においては,西日本だけでも「令和元年8月の前線に伴う大雨」「令和2年7月豪雨」「令和3年8月の大雨」と毎年のように自然災害が発生しており,それらの地域を詳細に記録した. 2つめのイメージモデルに関して,理科学習で行われている教科書およびその他の資料について,自然災害がどのような記述で掲載されているのかを調査し,児童に自然災害の理解に必要なイメージモデルを検討した.具体的には流水のモデル実験を用いた場合の勾配のつけ方や蛇行した河川モデルの作成の最適化を図り,イメージモデルを通して実際の自然災害の様子が再現できるようにした. 3つめの時間的操作モデルに関して,有史以来,被災地の繰り返された災害の過去を資料として整え,現在と過去を繋ぐ授業時の学習プランを作成した. これら一連の3つのモデルから構成された学習プランは学校現場での活用が可能になった.
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