研究課題/領域番号 |
20K02797
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
原田 信之 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (20345771)
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研究分担者 |
宇都宮 明子 島根大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (40611546)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | コレクティブ・エフィカシー / 集合的効力感 / 認知能力・非認知能力 / コンピテンシー |
研究実績の概要 |
カリキュラムの学校段階間の接続の多くは、国際的にはコンピテンシー(資質・能力)を主軸におく学術研究として取り組まれてきた。これは就学前からすでに育まれている資質・能力を的確に捉え、制度化された機関としての学校等に段差や切れ目がないように組み込むことで学校教育を充実させるためである。この学びの連続性を展望できるようにする学術研究の課題は、接続体系の主軸となるコンピテンシーの選定であり、有意とされながらも可視化しにくい非認知能力をコンピテンシーとして可視化し、認知能力と併せてカリキュラムの体系に組み込むことである。このことから前年度には、ドイツ2州のビルドゥング計画を取り上げ、どのような資質・能力を設定し、幼小接続に有効に機能するようにしているのかという問いの下、低年齢児にふさわしい全人的教育を実現しつつ、コンピテンシーを要とするカリキュラムのどこに有効な構造的特色とすぐれた体系性が見出されるかを明らかにした。このカリキュラムの特色は、ビルドゥング学を基盤にした「三次元構成論」として抽出できた。認知スキルと社会情動スキルの輻輳性・相乗性をもって説明できる連関モデルを基に、その体系的連関性の詳細な描出に努めた。しかし先のビルドゥング計画を詳細に分析しても、近年、有力な非認知能力として着目されるコレクティブ・エフィカシー(集合的効力感:CE)がカリキュラムに実装されている実態は掴めなかった。これは他州のケースでも同様だった。そのため両コンピテンシーを輻輳的に高めるカリキュラムを再構築するのに、CEという非認知系の能力そのもののコンセプトを解明するためJohn Hattie他Collective Student Efficacyを邦訳するとともに、日本協同教育学会研修委員会主催の協同教育実践交流会において、このCEの教育実践を検討するワークショップ型研究会を開催するなどした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究については、研究計画立案の段階で本研究の目的を達成するための展望を描くため、研究目的達成の核となるメルクマールを4つ設定している。第1に、歴史教育学の観点から低年齢期に適した認知系コンピテンシーを解明することであり、第2に、ドイツ低年齢期教育での幼小の接続に有効に機能する非認知系コンピテンシーを理論と実践の両面から検討することである。そして第3は、体験学習を通して社会認識の基礎を育成する生活科独自のコンピテンシーを確定することであり、第4は、体験と認識の調和を実現することのできる、融合型コンピテンシー志向の幼小接続カリキュラムを開発し、具体的な教材例を示すことである。これら4つのメルクマールからすると、ここまでの研究成果において、2つの州のモデルカリキュラムを取り上げ、カリキュラムに配置された認知系コンピテンシーと非認知系コンピテンシーを特定し、それら両コンピテンシー構成要素が立体的にカリキュラムに配置されていることを「三次元構成論」という独自の概念的呼称を与えることでその構造モデルの可視化を図った。また、2つのモデルカリキュラムに基づき、生活科に転用可能な社会認識の基礎を育成するコンピテンシーの抽出は概ね成功していることから、具体例を通しそのコンピテンシーの実像の細部にわたる描出にも取り組和れてきた。これらのことから、研究の進捗状況としては概ね良好に進んでいるものの、昨年度までの研究では、国際的には有力視されてはいても、ドイツの2州のビルドゥング計画の次元ではコンピテンシー構成要素として実装されている実態がつかめなかった非認知系能力としてのコレクティブ・エフィカシー(集合的効力感)のコンセプトの解明に時間を要した。これについてもおおよその成果は得られたと判断することができるが、次の取り組みとしては、ここまで積み上げてきた研究成果を総括的にまとめることである。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画立案の段階で示した本研究遂行のための4つのメルクマールについては、概ね達成できたと見込まれる。これによりコレクティブ・エフィカシー(集合的効力感)のコンセプトの解明ということでは当初の見込み以上の研究成果が得られたと評価している。過年度において積み重ねてきた研究成果を単著書として出版することで総括的な研究成果のまとめとすることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症等によりできなかったドイツの研究機関等への調査が令和5年12月にやっと実施できたこと、これに加え、名古屋市立大学から中部大学への転任や、日本学校教育学会会長の職務遂行により、予定していた単著書執筆が大幅に遅れたことによる。残された助成金はこの研究成果の公表に使用する予定である。
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