本研究は、小学校中学年レベルの音楽的認知と音楽学習の壁(つまずき)に着目し、この段階のパフォーマンス評価の開発(第1の柱)と学習支援の類型化(第2の柱)を目指すものである。 第1の柱については、創造的音楽活動において『かえるの合唱』『カノン』などの具体的な楽曲を介して表現や関係性がどのように変容するかを活動モデル(エンゲストローム)や覚識の連続体(ボクシル)を援用した事例分析により可視化した。これらにより2019年度に開発した「図と地の分化に関するルーブリック(根津、2019)」の課題を明らかにすることができた。 第2の柱について、研究開始段階では「身体・運動」「認知」「技能」「文化」「環境」「心理」の6つの分析観点を設定していたが、例えば「覚識の連続体」に基づき、「パフォーマンス」「動機づけ」「外界への気づき」にまとめることによって、より簡便なツールとなることがわかった。 コロナ禍の影響でカンボジアにおける調査は実現できなかったが、2019年度に調査したシャムリアップ州プレイキション村の小学生のパフォーマンスについて、特に「文化」「環境」の違いによる「認知」の特性と図と地に着目した支援の重要性について検討することができた。これにより、2001年以降のカンボジアの合奏支援の在り方について、SDG‘sの観点から再考することができた。 本研究の核心的な「問い」は、2つの問題意識から成っている。まず、音楽的認知を把握する観点として「文化」「環境」の観点が不可欠である点、そして外界のモノ・コトを図(figure)として前景に浮かび上がらせ、地(ground)と明瞭に区別することのできる「awareness(きづき)」がアイデンティティの確立に関与している点である。これらの「問い」に対して従前の活動コンテンツをまとめることができた点で目標を達成することができたと考える。
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