研究課題/領域番号 |
20K02815
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
郡司 明子 群馬大学, 教育学部, 教授 (00610651)
|
研究分担者 |
茂木 一司 跡見学園女子大学, 文学部, 教授 (30145445)
井上 昌樹 育英短期大学, その他部局等, 講師(移行) (10780471)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | アート / 身体 / パフォーマンス / なって/みる / 美術教育 / プログラミング思考 |
研究実績の概要 |
本研究の目的である「アート的身体」論を実装するパフォーマンスの実践/理論研究として、主に二つの方向性から研究の成果を記す。 一つは、本研究の中心理論であるパフォーマンス・アプローチ(ロイス・ホルツマン)における「なってみる」学びを美術教育の視座から独自の解釈を試みたものである。「なってみる:trying」を「なる:becoming」と「みる:viewing」ことから生成される行為として捉え、「なって/みる」と表記することにした。「なかんじょ(中之条)になってみる?」実践(学部4年岩田龍真卒業研究)と保育現場におけるドキュメンテーション(学びの記録)から幼児があらゆる人やものや状況に「なって/みる」様子を読み解き、分析・考察を行った。(第44回美術科教育学会東京大会にて口頭発表、及び日本保育学会第75回大会自主シンポジウム) 二つ目は、アート的身体を感性と論理的思考が融合する場として、その具体的なあり方の可能性を探るものである。大学授業「美術科指導法C」(井上・茂木・郡司担当)の実践を通じて、美術教育にプログラミングを導入することで実現するアナログ(身体)とデジタルを融合した社会構成主義的な学びのあり方を検討した。プログラミング学習ツールとしては、身体性との関連づけを意識しながら、Viscuit(ビスケット)、Sphero(スフィロ)、MESH(メッシュ)、Scratch(スクラッチ)を紹介した。その上で、身体性・即興性・協同性に基づきプログラミングを取り入れた総合的表現として取り組む「プログラミング学習ツールを取り入れた演劇表現を考えよう」という課題を提示。そこで起こった学びを明らかにするため、動画による活動過程及び作品の記録、また、学生の振り返りの記述から読み解き分析・考察を行った。(第44回美術科教育学会東京大会にて口頭発表)
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、美術教育における「アート的身体」論を実装するパフォーマンスの意義と可能性を明らかにすべく、実践とその省察を通じた理論研究を展開している。「アート的身体」論とは「世界に対話的であろうとする志向/行為」に基づき、感性/コミュニケーション/テキスト/思考などを活用するアート(技芸)によって探究に向かう学び論である。この考えを実装するにあたり、身体に根ざした表現活動を軸に多様な学びの場づくりが実現した。 中之条ビエンナーレ2021における町民アートプロジェクトでは、「中之条芸術大学」(群馬大学美術教育講座主催)を立ち上げ、地域の教員養成大学ならではの視点からラーニングプロジェクトを展開した。「まなび±アート」×研究」では、「なかんじょ(中之条)になってみる?」というワークショップ(卒業研究・岩田龍真)を行った。そこでは想像/創造的な身体性に基づく活動が展開し、アート的身体の生成における要素を分析・考察を行うことができた。(第44回美術科教育学会東京大会) 大学授業「コミュニティ学習ワークショップ」では、ダンサーを招聘し、学生及び附属特別支援学校の児童・生徒とのダンスワークショップの機会を設け、幅広く「アート的身体」のありようを考察する中で、美術(アート)教育に還元できる要素を見出すことができた。特に、身体表現として即興的にイメージを出力・交流することは、動きを通じて共に楽しむ中でさらなるイメージが喚起され、学びの場が活性化することから、造形表現以前のイメージの広がり(拓かれた身体)を保障する際に有効な手立てとして位置づけられる。 大学授業「美術科指導法C」では、プログラミングを取り入れた総合的な演劇的表現(なってみる学び)において、感性と論理的思考の融合に向けた具体的な実践事例及び学びの内容に関する分析と考察を示すことができた。(第44回美術科教育学会東京大会)
|
今後の研究の推進方策 |
美術教育としての「なって/みる」の特性を考察するにあたり、他教科におけるパフォーマンス=なってみる学びとの比較検証を行う。国語科・生活科・道徳科・英語学習等にみられる「動作化」や体育科の身体表現、音楽科の歌唱、演奏も検討の対象となる。また、従来の美術教育の題材においても想像力を働かせ「なってみる」要素が強い題材もあるので、教科書等のリサーチから、全体の傾向を把握する。以上を先行研究として位置づけ、美術教育における「なって/みる」ことの意義を具体的な実践事例及び省察をもとに明らかにする。これらは、論文(査読付)にまとめ、さらなる考察を深めたい。 また、幼児期における「なって/みる」こと(ファンタジーとリアルの間)の考察は、自身の投影による「なってみる」か、他者認識に基づく「なってみる」ことなのか、見極めが難しいため、継続的な観察と共に保育者へのインタビュー調査を行い、乳児から幼児の活動における幅広い事例の中で検討していきたい。その際、「なる」と「みる」の間に生じるであろう共感(empathy)についても、関連の文献調査等を通じて注意深く検討していきたい。 伊)レッジョ・エミリアにおけるアルテ・ナラ(アート・パフォーマンスの祭典)やローマで活動するSegni Mossi(造形と身体表現の融合に造詣の深いアーティスト)の動向、パフォーマンス・アプローチの世界大会(NY)等にも注目し、コロナの状況が緩和次第、現地におけるリサーチを進めていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
差額は、コロナ禍により海外でのリサーチを想定した渡航費の未使用分である。当該助成金は、研究計画に基づき、文献調査及び研究テーマに関する学習会やアートイベント講師への謝金等を想定し、有効に活用していきたい。また、今後の状況改善により渡航が可能であるならば、パフォーマンス・アプローチに関する海外の先行研究リサーチとして、ローマ(Segni Mossi)・レッジョ・エミリアとNY(PPLGの国際集会「Performing The World」への参加を予定したい。
|