研究課題/領域番号 |
20K02819
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
田中 伸明 三重大学, 教育学部, 教授 (60609246)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 新制高等学校数学科 / 学習指導要領 / GHQ/SCAP / CIE / 文部省 / 数学教育史 |
研究実績の概要 |
本研究は、第二次世界大戦後の新制高等学校の数学科の成立過程を明らかにする研究である。1948年4月の新制高等学校発足時は、学習指導要領がない暫定的成立となった。そこまでの過程については、筆者の先行研究で明らかになっている。本研究は、その暫定的成立の後、GHQ/SCAP(連合国最高司令官総司令部)のCIE(民間情報教育局)の管理下で1951年に刊行される高等学校数学科初の学習指導要領の成立過程を明らかにすることを目的としている。 令和2年度は、その前史として、戦後の高等学校数学教科書の編集過程を明らかにできた。新制高等学校発足時の数学教科書は、中等学校教科書株式会社発行の『数学 解析編(Ⅰ)』、『数学解析編(Ⅱ)』、『数学幾何編(1)』、『数学幾何編(2)』の4冊のみである。文部省検定の教科書は、この1社の発行によるものだけで、「1種検定」と呼ばれている。それゆえ、先に述べた新制高等学校の暫定的成立に対して大きな意味を持つものである。 研究の成果は多々あったが、『数学解析編(Ⅱ)』の検閲を行ったCIEのオズボーンから、「難しすぎる」、「実用的でない」、「大学の前半の課程である」との批判を受ける。そして、2年間という「期限付き」、新しい科目編成を直ちに始めるという「条件付き」で印刷許可がなされた事実を明らかにできた。また、『数学幾何編(2)』についても、『解析編(Ⅱ)』と同様に、「大学の専攻科目」という批判がなされ、大学に送ることをCIEは忠告したことも明らかにできた。 また、教科書の発行計画自体も、紆余曲折したことが分かった。教科書の発行計画は、1946年11月時点では、「数表」、「代数-幾何」、「幾何-解析幾何」の各1冊と計画されたが、紙の欠乏状況に対応しつつ何度も計画が見直されたことも明らかになった。令和2年度の研究成果は、令和3年度中に論文として発表する計画としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度、本研究はその進捗が遅れてしまった。それは、新型コロナウィルス感染拡大の波が押し寄せたことが大いに起因している。 県境をまたぐ出張の自粛を余儀なくされ、当初予定していた国立国会図書館に出向いて行うGHQ/SCAP文書の調査が困難であった。出張調査によらなければならない史料発掘に大きな支障が生じた。したがって、令和2年度は、これまで入手していた史料を用いたり、Webから入手できる史料を用いたりしての研究となってしまった。 また、所属する教育学部内の役割として、令和2年度は教育実習委員会の委員長を務めた。委員長は、学生の教育実習を統括し司る立場にあり、収束状況の見えないコロナ禍における教育実習は、渉外的にも実習内容の構築にも乗り越えなければならない問題が次々と起こり、それが山積した。それらの一つ一つの問題解決に過重労働で忙殺され、研究の時間を十分に確保することが出来なかった。何とかのべ340名程度の学生の教育実習を完遂することはでき、それは極めて喜ばしいことであったが、研究の進捗が遅れてしまったことは、残念なことである。また責任を痛感している。 しかしながら、本研究は数学教育の歴史研究であるため、時系列的な経緯のつながりが大切であることは言うまでもない。本来の研究対象である学習指導要領の成立過程に対して、その前史に当たる研究を推進できたことの意味は大きいと考える。また助成頂いた科研費で、ワークステーション・コンピュータやタブレット・パソコン、その周辺機器を整備できたことは、今後の研究の推進に大いに資するものである。 令和3年度は、史料発掘を精力的に行い、遅れを取り戻したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究が拠り所とする一次史料は、国立国会図書館に所蔵されているGHQ/SCAP文書であり、その精査が欠かせない。変異株の拡大による新型コロナウィルス感染爆発が懸念される中で、2021年4月25日から東京・大阪・兵庫・京都に緊急事態宣言が適用されることが決まった。都知事から「エッセンシャル・ワークを除き、東京に来ないでほしい」という要請も出されている。令和3年度は、新型コロナウィルス感染の状況を注視しながら、資料収集のための出張調査を行いたい。しかし、これが危機的なパンデミックになった場合、史料の入手方法を再考して研究を進めるしかないと考えている。 このような状況下にあって、史料の収集、文献の調査を行い、令和3年度末には中間発表に至れるよう、研究を推進したい。まずは、連合国軍占領期後半に編集された高等学校数学科初の学習指導要領である『中学校高等学校学習指導要領数学科編(試案)』(1951年11月25日)の成立過程を読み解く日本側と連合国側の史料を発掘・入手できるよう取り組むことにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由):新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、出張調査を制限せざるを得なかったため。 (使用計画):新型コロナウィルスの状況を注視して感染防止対策を行いつつ、出張調査および成果発表に使用する予定である。
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