本研究の目的は、家庭科の実践的・体験的学習とシティズンシップ教育の関連を検証し、SDGs時代に教育に求められている生活の変容を促す家庭科教育の理論と評価を解明することである。具体的には、衣、食、住などの実践的・体験的な学習とシティズンシップをつなぐ授業を開発して授業実践分析や家庭科教師へのインタビュー調査によって、育まれた技能と価値観や倫理観などを評価する。 小学校の授業開発と授業観察、家庭科教師へのインタビュー調査、シドニーで開催されたオーストラリア教師教育学会の参加、文献調査などから以下の結果を得た。 第一に、生活を親密圏と公共圏の再編として捉えることを通して自分と社会を変える家庭科教育の可能性と意義を明らかにした。第二に、家庭科の実践的・体験的学習では、「生活の役にたつ」プラクティカルな能力の育成を目的として能動的経験を強調する傾向があるが、生起している受動的体験に着目し、それらが児童の内側で総合する活動を時間的・空間的にデザインすることによって、児童の主体性が育まれることを提示した。第三に、育まれた技能と価値観や倫理観には、人間の脆弱性に応答する主体性や想像力、ケアの倫理があった。特に家庭科の実践的・体験的学習には、「手の倫理」が見いだされた。本研究成果は、全国の家庭科教育研究者たちとのオンラインの研究会によって集団的に批判検討され、研究代表者執筆論文や著書(共著)にした。 成果物は、2つの研究者代表論文と3つの共著に刊行した。高校の家庭科教科書検討会編「グローバルネットワーク社会における家庭科―誰もが幸せになるために」日本家庭科教育学会編「家庭科の独自性と教師のポジショナリティ」大学家庭科教育研究会編「命と人生をケアする家庭科シティズンシップ教育ーエコロジカルアプローチ」を執筆して、広く家庭科関係研究者に批評を受けた。
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