研究課題/領域番号 |
20K02848
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
寺井 正憲 千葉大学, 教育学部, 教授 (50272290)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 異質性や他者性 / 情報の編集としての話し合い / 編集による学習指導モデル / 協同的態度 / 自問自答 / 参加者の感情 / 多角的に考える |
研究実績の概要 |
2023度は、学習指導モデルの作成に取り組みながら、異質性や他者性のある学習場面について考え、二つの単元を開発した。一つ目は、中学校2年生が対立や軋轢に対する認識やその対処の在り方について考えるもので、具体的には、SNSやインターネット上にある攻撃的な言動や非協働的な話し合いを台本化し、生徒が読み合いながらその問題点と改善案を考えるという単元であった。二つ目は、中学校3年生が高校生活を迎えるにあたってコミュニケーションで不安に思うこと(新しい友人関係、部活動、インターンシップや就職活動など)を挙げ、それに対して解決策を練って話し合いでまとめ「コミュニケーション事典」を作るという学習指導であった。前者は強く他者性や異質性を感じる話し合い場面を取り上げながら異質性や他者性の捉え方やそれへの対処の仕方について、後者は見えない異質性7他者性をこれまでの経験を活かし多角的な視点から問題の分析し対処の仕方について、それぞれ考えるというものであった。いずれも話し合いや状況をメタ認知して多面的に考えることが重要であり、また生徒たちの関係構築に関わる方略的な意識や態度の変容や、異質性や他者性を前提に関係性を構築するような視点が重要であることが確認された。 また、読書活動を活かした批評の学習における他者性や異質性について大学生を対象とした授業において、リテラチャーサークルと順位付けによる批評の話し合いの質的な違いに着目して、批評の学習指導における対立や異質を前提とした話し合いにおける各個人の参加の仕方や他者の意見の受け止め方、よりよい批評の話し合いの在り方に関わる知見を得ることができた。 これらの学習指導から、他者性や異質性を前提としたコミュニケーションにおける人間関係を維持するための参加者の感情に関わる問題や話題となる問題を多角的に考えるための哲学的な思考に関わる問題が明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究を進展させるにあたっては実践家の協力を仰ぎながら単元を開発することが重要であるが、2022年度まではほとんど単元の開発に取り組むことはできなかった。2023年度は5月にコロナが第5類に移行したことによって、ようやく単元開発に向けた協議がこれまでよりも進められることになり、ようやく中学校における学習指導の成果を得ることができるようになった。しかし、まだまだ実践数が少なく、また実践を通して顕在化してきた、参加者の感情に対する問題や軋轢があらわとなる話題を多角的に考えることの問題について考える必要が出てきたので、それらについても新たに専門的な知見を得ることや単元を開発することの必要性も考えられるようになった。 コロナに伴っていた単元の開発の遅れが生じていることと、単元を開発することによってあらわとなった問題に新たに取り組む必要性が出てきたことも、進捗がやや遅れる理由となっていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度の計画は、これまでに行ってきた強い異質性や他者性が存在するコミュニケーションへの参加の意識や態度、コミュニケーションによる意味生成の知識や技能、編集の考え方に基づく学習指導モデルについて整理し、またこれまでに行ってきた実践した授業実践の成果を踏まえて、その修正と新たな単元の開発に取り組むことにする。特に、強い異質性や他者性のあるコミュニケーションの場合、参加者の感情の問題や話題を多角的に見る必要性が明らかとなったので、これらに関わる専門的な知識の収集、検討、またそれに基づく単元の開発が必要となった。また、読むことの領域における批評の学習におけるコミュニケーションに関わる異質性や他者性の問題を取り上げた学習指導を発展させるように単元を開発していきたいと考えている。 この作業を行うために、附属学校の教員や過去の長期研修生などの実践家との授業研究の研究協議を進め、授業実践の開発に取り組む。また、新たに出てきた参加者の感情に対する問題や軋轢があらわとなる話題を多角的に考えることの問題について考える専門的な知識を受けるための講師の招聘と研究会の開催、得られた知見を基づく単元の開発に取り組んでいきたい。 それらの作業に取り組みながら、最終年となるのでこれまでの研究の成果や実践記録をまとめ、考察を進めることに取り組む。これらの作業を進め、強い異質性や他者性に対応する話すこと聞くこと、書くこと、読むことなどのコミュニケーション活動に関わる学習指導モデルの理論や実践の成果をまとめて発表すると共に、自主公開研究会などに開催しシンポジウムや実践報告を行い、研究成果を多面的に発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでコロナ禍の影響によって対面による学会や研究会に参加することができず、旅費の使用が発生しなかった。また、本研究を進展させるにあったては実践家の協力体制の構築が必要となるが、単元の開発に手間に取り、授業実践をを行うことはできたが、まだ授業が数だ不足するとともに、実践研究会を開催することなどができず、そのための人件費や謝金があまり発生しなかった。 2024年度は、小学校で新しく発行された教科書などを購入したり、ソーシャルスキルや哲学的な対話に関わる文献の購入や、強い異質性や他者性のある相手に対するコミュニケーションの参加者の感情の問題や話題に対する多角的なアプローチのための哲学的な対話に関わる専門的な知見を得るために講師を招聘するための謝金や旅費などの支出が見込まれる。さらに、コロナ禍の対応で遅れた実践家との実践研究会の組織を発展させ、学習指導やカリキュラムの開発に取り組み、実践研究会を開催する予定でいる。これらのために、謝金、人件費が見込まれる。
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