理科で学習する自然事象について子どもは、日常生活と関連させて、学習前に自分なりの考えを構築している場合も多い。そのため、理科学習を通して子どもが、他者(ヒト・モノ)のもつ情報(社会的分散認知)を自分の考えに適切に取り入れて、保持している科学的概念を変容させることも必要となっている。このように学習者自身にも学習状況の把握と調整を促す理科授業を実践するためには、理科学習で社会的分散認知を子どもがどのように共有し統合するのかについての知見を得る必要がある。そのため,本研究では、協調的な問題解決場面を設定し,子どもが得る様々な情報(社会的分散認知)の共有や統合から、子どもの科学概念構築を支援する理科授業デザインの開発のための視点を検討した。 研究最終年度となる2023年度に実施した研究内容や成果の精査から、本研究における理科授業デザインにおいて、以下の点が明らかとなった。 ・小学校理科での実験を通して子どもが見いだした新たな問い(複数の箇所に吊り下げた重りのつり合い)の解決を図る場面を設定し検証した。その結果,子どもは他者からの情報(検証方法,結果)についても検証していくことで,「てこの規則性」の理解を深め,学習後も「てこの規則性」に関する科学概念を保持することができていた。 ・小学校理科の「音のせいしつ」では,子どもにとって身近である楽器を用いて「音と振動の関係」についての理解を促すが,子ども選択する楽器により,子どもが理解をうまく表現できないことも示された。このことから情報を吟味する機会を増やす必要があることも理解できた。 研究期間当初から新型コロナ・ウイルス感染症の流行もあり,予定していた授業実践とその分析が十分にはできなかった。しかし,理科学習で社会的分散認知を子どもが他者と共有・統合し理解を深めるためには,検証すべき「問い」の明確化が必要であることも,本研究から改めて理解できた。
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