研究課題/領域番号 |
20K02884
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
裴 光雄 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (60263357)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Society 5.0 / 第4次産業革命 / 経済教育 / 社会科教育 / 日韓社会科教科書比較 / 社会科経済領域 |
研究実績の概要 |
サバティカル期間中、受け入れ先機関であるソウル教育大学の図書館にて、「第4次産業革命」に関連する本を読み、研究した。同図書館では、「第4次産業革命」関連書籍の特設コーナがあり、100冊以上の本があった。これらの本のうち、社会科学と教育に関する文献をチェックし、リストを作り、研究ノートを取りながら精力的に熟読した。 サバティカル期間中、研究会報告を2回行った。最初の研究会報告は5月15日、ソウル教育大学初等教育研究院主催の開学75周年記念、国際シンポジウム『ニューモラル時代、初等教育の志向』において、「Society 5.0(第4次産業革命)時代の日本の教育改革の特徴と提言」というテーマで行った。 Society 5.0が提唱された背景とは何か。1990年代以降、日本の経済力と国際社会での地位の低下に対する危機感がある。日本の経済力の再生が希求され、アベノミクスとして具現化する。そして、日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-、未来投資戦略2017-Society 5.0の実現に向けた改革-といったように、2010年代後半から展開されていく過程を論じた。Society 5.0時代の教科教育(社会科教育、経済教育)の課題を克服するための方向性として、①学習者主導型のアクティブラーニング用教科書を作成するために、網羅的・知識多量注入式の内容を止める。学習内容を厳選し、大胆に削減し、「主体的で対話的な」テーマ設定型の教科書に変えること、②「教科書を変えることによって、教育を変える」というポジティブ思考による教育内容・方法の革新が、今、求められていることを強調した。 次に8月21日、韓国社会科教育研究学会の年次定期大会にて、「第4次産業革命の視点から見た日本の社会科学習指導要領の課題」というテーマで研究報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象国である韓国の第4次産業革命の進展による社会への影響と変化について、文献による研究だけでなく、現地の研究者との交流によって知見の深化・拡大を図ることができた。今日の韓国社会は明らかに日本以上に、韓国の第4次産業革命の進展による社会への影響と変化が大きいことが分かった。コンビニは変わらないが、スーパーマーケットでは支払いコーナーに殆ど従業員はおらず、バーコードの読み取りとクレジットカードによるセルフ決済システムが貫徹されている。レジ労働力の駆逐は一目瞭然である。また韓国人はもはやタクシー乗車において、いわゆる流しのタクシーを路上で手を挙げて捕まえたり、タクシー乗り場で順番を待つようなことはしない。カカオトークアプリによって空車を確保するのである。 サバティカル中に今日の韓国社会のIT化、AI化の凄まじい発展を垣間見ることができ、研究書、教科書、副教材等の文献の世界だけでなく、現実の社会で実体験したことは非常に貴重であった。 韓国の第4次産業革命の進展の基礎には、政府による1990年代末以降の社会・経済のIT産業の発展・開発政策とともに、教育における持続的で強力な推進があった。一言でいえば、学校教育現場におけるプログラミング教育(韓国ではソフトウェア教育という)の実践である。この点に関しては、本務校のグローバルセンターとプログラミング教育WG(ワーキンググループ)共催企画による海外協定校間学術研究交流プロジェクトとして、ソウル教育大学、全州教育大学、大邱教育大学のコンピュータ学科教授を招聘し、「日韓のプログラミング教育の現状と課題-韓国の教育大学からの報告を受けて- 」2022年2月21日にZoomによるオンライン学術会議で実施した。この学術会議では、日韓通訳をIT機器・プログラムを使った音声識別による文字化(字幕)システムを初めて試みている。
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今後の研究の推進方策 |
Society 5.0時代の日韓経済教育の比較研究をさらに進める。具体的には、第1に日本の高校公民科「公共」(2018年改訂学習指導要領)と韓国の高校社会科「統合社会」(2015年改訂教育課程)が共に必修科目として誕生する学術的背景を明らかにする。第2に、「公共」の学習指導要領と「統合社会」の教育課程の内容・構成を経済領域に焦点を当て明らかにし、特徴を抽出する。第3に、「公共」教科書と韓国の「統合社会」教科書のそれぞれの経済領域の記述内容、データ表示等を比較検討し、特徴を捉える。第4に、経済領域の中でもSociety 5.0時代のニューエコノミーの態様について、日韓のそれぞれの特徴を描き出す。日韓の教科書比較は全ての検定教科書を対象に行う。 「公共」と「統合社会」の比較研究を終えたら、次は日本の高校公民科「政治・経済」と韓国の高校社会科「経済」の比較研究を行う。研究手順は、先の「公共」と「統合社会」の場合と同様である。 韓国では第4次産業革命を国民と国家が挑むべき時代的で経済的かつ克服すべき「宿命」的課題と捉えている。一方、日本ではSociety 5.0を迎え入れるべき薔薇色の理想的な未来社会として描いている。この日韓の違いは何なのか、どこから来るのか、明らかにする必要がある。IT・AIの進展によって可能となって行くシェアリング経済は持続可能な社会、環境等の面からは肯定的に捉えられたとしても、経済成長の面からはどのように評価されるべきか、問われなければならない。IT・AIの発展が導くさらなるデジタル社会の進展は、経済的不平等の一層の拡大・進化を招くとされるが、このことを経済教育はどのように評価すべきか、明らかにしなければならない。また阻止、克服のためにはどうすれば良いのか、その教育に関して答えを追求していかなければならない。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった研究書が当該年度では入手できなかったため。
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