本研究は,数学教育で深い学びを実現するために,数学授業における数学的活動をデザインすることが目的である。数学的活動とは「数学化」「数学をつくること」であり,深い学びとは,一般化・抽象化・統合化・記号化・形式化などの「数学を洗練する活動」を生徒の主体的学習に実現することであると捉えている。そして,数学を洗練する活動を実現するための数学的学習場を,一般的な指導法の開発ではなく,数学に固有な教材開発によって形成することを狙いとし,そのための教材開発のストラテジ-を同定し,その有用性を実践を通して検証することも研究の主要なねらいである。 2020年度は教材開発のストラテジ-として,①ある変数を連続的に変化させ順序よく並べる(逐次的変化と共変性・不変性への着目)②ある条件・性質を否定して変更する(What-If-Notストラテジー)③問いと答えを逆転させる(逆・裏の命題,十分性を考る) ④セッティングを変える(思考の場としての表現方法を変える) ⑤図を動かす(図形の連続的変化と共変性・不変性への着目) ⑥範囲の制限をはずす(物理的・時間的制約を超える) ⑦次元を変える(平面から空間に,変数をふやす) の7つを有効なストラテジーとして同定した。 2021年度はこれらのストラテジーを適用して数学的活動における統合化を「一般化による統合」「拡張化による統合」「補完化による統合」「組織化による統合」の4つに分類し,統合化の累進的過程を設定した授業をデザインした。 2022年度および2023年度は,それぞれ,数学的素材「アリスモゴン」と「鏡の本」に対してストラテジーを適用して,本質的学習場を構成し,小学校と中学校で実践を行ってその教育的有効性を検証した。教材開発のストラテジ-を活用して授業をデザインしたことで,数学を洗練する深い学びを実現する本質的学習場を構成することができた。
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