研究課題/領域番号 |
20K02944
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研究機関 | 八戸工業大学 |
研究代表者 |
岩見 一郎 八戸工業大学, 感性デザイン学部, 教授 (70803675)
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研究分担者 |
高瀬 慎介 八戸工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (00748808)
橋詰 豊 八戸工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (60803236) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 工学研究 / 国際学術会議 / プレゼンテーション / 英語教育 / 第二言語習得 / 言語社会化 / 熟達 / アイデンティティ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、国際学術会議で英語による研究発表を行う工学研究科の学生向けに英語教育を基盤とする支援プログラムを開講し、事前練習への取り組み、国際学術会議での研究発表、様々な文化圏の研究者との学術交流等の観察を通して、複言語話者としての熟達、アイデンティティ変容が見られるかどうかを考察することだった。当該年度には、前年度に引き続き、英語教育専門の研究代表者が中心となって支援プログラムを実践した。そして参加学生の発話と付随する社会的行為の観察、国際学術会議及び学内で開催した英語プレゼンテーションのワークショップでの口頭発表と質疑応答の観察、アンケート調査への回答等を基に、変容が生じていると考えられるか否か、言語社会化の視点から考察した。 観察結果から学生たちは英語ネイティブ指導者とのオンラインのマンツーマン練習で社会的なインタラクションに積極的に取り組んでいることが明らかになった。専門分野のインタラクティブな活動に取り組む機会が増えれば、国際学術会議に向かう学生の英語プレゼンテーション能力、社会的コミュニケーション能力の育成が促され、国際的なエンジニアのコミュニティで積極的な参加者として機能する可能性が高くなると推察できる。 一方、過去実施のアンケート調査への回答からは、国際学術会議での口頭発表自体は事前練習を徹底することで十分対応可能であるが、発表後の質疑応答にどう対処するかは課題として残っていた。当該年度のオンラインの国際学術会議では学生と他の研究者とのやりとりは限定的だったが、対面式とオンラインを組み合わせたワークショップでは、多くの参加者を前にした学生の研究発表、オンライン参加した英語ネイティブ講師を含めた質疑応答が実現した。 これら実践は後続の学生にとって参考事例となる。今後、さらなる研究成果を積み重ね、それに基づいて指導実践の改善・充実に努めたい。(798字)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本学の学生が研究発表を行う国際学術会議は、コロナ禍で、オンラインでの開催が一般化してきた。この動向を踏まえ、支援プログラムでも、オンラインでの研究発表を意識した指導実践を重点的に行う必要がある。 この支援プログラムでは、研究代表者が中心となって英語教育を基盤とするプレゼンテーションの指導を行っている。しかし、普段から英語でのコミュニケーションの機会が不足している学生たちにとって、英語ネイティブ教員が常駐していないデメリットは大きい。当該年度には、前年度に引き続いて、3種類の指導実践を行った。研究代表者が担当した指導実践は一斉授業形式のものと希望者対象の個別指導形式のものであり、委託した英語ネイティブ外部講師が担当した指導実践はオンラインでの一斉授業形式のもので、最大5名の学生が参加した。また別の英語ネイティブ講師が担当した指導実践は、国際学術会議においてオンラインで英語プレゼンテーションを行うことになっていた2名の学生及び学内で開催したワークショップで研究紹介を行うことになっていた3名の学生を対象とするもので、全てオンラインでの個別指導によるものだった。国際学術会議及び学内ワークショップでの英語プレゼンテーションを控えた学生には、英語ネイティブ講師とマンツーマンでやりとりする機会は有益であり、今度も継続したい。 さらに学生の観察から、複言語話者としての熟達、アイデンティティの変容は工学研究の英語プレゼンテーションの枠のみでは捉えきれないことが見えてきた。この支援プログラムは、国際学術会議での研究発表、質疑応答への対処だけに特化するのでなく、幅広い話題でのコミュニケーション可能な人材育成の場と考える必要がある。現在は、SNSによる海外の工学系大学の研究者及び学生との異文化交流の機会を設けているが、今後はさらに、国内外に在住する異文化圏出身者との交流も推進したい。
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今後の研究の推進方策 |
複言語話者としての熟達とアイデンティティの変容・発達には、多様な文化圏との接触、社会的交流が不可欠であり、机上の学習及び知識習得だけではなし得ない。当該研究の開始年度には海外で開催される国際学術会議に参加する学生たちの英語を使った学術交流の経験を、熟達及びアイデンティティの変容・発達の機会として、社会的視点から観察し、考察することを期待していた。しかしコロナ禍で、国際学術会議に出席するために海外へ渡航する機会も、多様な文化圏の研究者集団の前で研究発表したり、学術交流を行ったりする機会にも恵まれなかった。そうした中で、当該年度は国内でオンライン開催された国際学術会議で英語を使ってプレゼンテーションした学生が2名おり、彼らの取り組みは後に続く者たちにとっては貴重な参考例となる。 今後も国際学術交流にコロナ禍の影響があることが予想されるものの、研究代表者が中心となって、前年度実施した一斉授業形式、個別指導形式の指導実践、英語ネイティブ外部講師による一斉授業形式と個別指導形式の指導実践は継続したいし、学内での英語ワークショップも開催したい。それに加えて、学生たちには様々な機会を捉えて英語を含めた複言語話者としての言語社会化を促進したい。具体的には地域社会に在住するアジア及びヨーロッパの非英語圏出身者と交流する機会を設定したい。さらに支援プログラムを受講している学生と同世代で工学専攻だった英語ネイティブ話者を招いてオンラインでの学術交流を推進したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために、海外渡航が制限されており、従来の形での国際学術会議への参加・出席が難しい状況にある。研究対象となる学生たちも海外渡航することなく、学内に留まって、オンライン形式での国際学術会議に出席し研究発表をするようになっており、そのような状況下にある学生の観察を継続し、そこから学生の変容の可能性を探っていきたい。
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