本研究では、公的資金減少を契機として市場化の進展したアメリカ州立研究大学を中心に、主に機関レベルでの財源、人材、制度設計の観点から比較検討を行なうことにより、州立研究大学における学修経済支援戦略の実態について明らかにした。これまでアメリカの大学機関レベルの学生経済支援制度に関する研究は、主にハーバードやプリンストン、イェールといった寄付金や基本財産の潤沢な私立大学を中心として実施されてきた。このため、分析の焦点も寄付金や資金運用といった点から議論されることが多く、学生の教育参加に関わる観点からは分析されてこなかった。本研究ではアメリカの研究大学において、大学院生への経済支援としての給付金、フェローシップといった奨学制度に加え、リーダー、チューターといった授業補助、更に准講師、大学院生研究員といった研修・昇級制度のある大学院生の学内雇用であるASE(Academic Student Employee)を通じて博士課程学生の教員、研究者としてのトレーニングが実施されている状況について考察を行った。 ASEの最大の特徴は、教室内での教員の授業補助といった限定的な役割にとどまらず、教職員としてアカデミアの様々な場面での活動に学生を組み込んでいる点である。トライ&エラーのできる学生のうちにこうした様々な業務を経験することにより、学生は早期から自分の適性や得意分野を発見しやすくなる。また、ASEは学部・大学院教育の補講やSTEM教育、論文指導、サマーセッション等大学が提供する教育サービスをより豊富にしているという点おいて大学教育の質向上にも貢献しており、学内資源を有効に利用した経済支援の取組として大いに注目すべき制度であるといえる。また、近年我が国で指摘される教員の事務作業増加に伴う研究時間・成果低下への対応策としても、大学院学生の教育研究への参加促進は検討する価値があると思われる。
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