研究課題/領域番号 |
20K02968
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
藤村 正司 広島大学, 高等教育研究開発センター, 教授 (40181391)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国立大学法人 / 忠誠心 / 新公共管理論 / 潜在クラス分析 |
研究実績の概要 |
国立大学の法人化は、行政サービスを国立大学に依託することによる垂直的減量を図ることであった。法人化当初は、政府は国立大学に大きな自由裁量や自律性を与える(任せる)はずであったのが、政府は成果を客観的に評価し、統制を強化する(やらせる)新公共管理論にシフトした。国立大学が法人化第3期までに経験したことは、資金調達者としての政府の裁量性が著しく大きくなり、交付金の定率削減から基幹経費の一般管理費化など財政配分を通じた国立大学への関与が強まったことである。 そこで、初年度の2020年では,研究計画に従って、国立大学教員の二人に一人の校費配分が30万円以下と科研費新規採択率25%の厳しい研究環境が、教員の専門分野、学部、大学への忠誠心にどのような影響をもたらしたのか明らかにした。 2007年と2017年の比較分析により明らかになったことは、①一般教員の忠誠は2017年で「専門分野」への忠誠が急激に強まる反面、法人制モデルを支える大学への忠誠は有意に減じている。②所属機関を重視しない30歳台・任期付きの【離脱型】教員と50歳台の専門分野と大学・学部ともに帰属意識の高い【忠誠型】の台頭していること。③【離脱型】教員が増えたのは,テニュアトラックの拡大で雇用された若手教員が,安定的に仕事に専念できる雇用保証が確保できていないことによる。 以上の教員調査の政策的含意は、①法人化後に教授会を通じた意見表明(Voice)が喪失したこと、あるいは校費配分が急減したことから外部資金獲得のために専門分野への帰属意識が増加していること、②規律密度の薄い国大法の枠組みや評価基準の不明確性さが運用レベルで行政の裁量性を拡大させていること、③テニュアトラック後の安定した雇用を創出すること、④立法府の行政監視機能を強めることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、研究計画に従って、理論的研究の枠組みとして,高等教育組織論,公共政策論に依拠して分析を進めた。第1は、高等教育組織存立のメカニズムに関する理論的研究である。ここでは、新制度派社会学を用いて高等教育組織のようなアウトカムの曖昧な教育組織が存立するには、AKPI指標による評価ではなく、「信頼の論理」や正当性の取り込み、政策とアウトカムとの「脱連結」の重要性を押さえた。第2は、本研究で国立86大学の3期にわたる財務分析を行うために、2004年度から2019年度まで86大学の財務諸表(付属明細書)と事業報告書を収集し、データべース化を進める準備ができた。第3は、研究実績の概要で示した通り、教員データベースを用いて2007年と2017年の国立大学教員の専門への忠誠心が高まる反面、大学へのアイデンティティが弱くなった事実を明らかにした。研究成果は,「法人制モデルの長期化に対する国立大学教員の反応」『大学論集』第53号、53-68頁で示した。以上のことから、現在までの進捗状況については、おおむね順調に進展していると判断できる。なお、新型コロナウィルス感染で県外移動が困難であったため、当初予定していた東北大学と新潟大学の財務担当理事への取材ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、研究計画に従って財政圧力下にある国立大学の行動をメゾレベルで検証する。2004(平成16)年から2019(令和元)年度まで国立86大学の「財務諸表」から損益計算書と附属明細書をデータベース化し、大学単位だけでなく、セグメントレベル(学部別)に時系列データベースを作成する。経常収益総額に占める外部資金比率の推移、業務費総額に占める教育・研究費・教職員人件費の推移を大学類型別に把握する。次いで、基幹財源の減少はどの外部資金獲得を目指すのか、基幹財源と外部資金が教育・研究経費比率、人件費率に及ぼす影響を大学類型別にパネル分析により計測する。パネル分析で大学間(Between)大学内(Within)の変化を区分することで財政圧力の影響を受けやすいセグメントと頑強なセグメントの二極化を確認する。 さらに、財政逼迫の影響と外部資金獲得の実態を精査するために,また2020年度で取材できなかった財務担当理事・副学長への訪問調査を行う予定である。ただし、COVID-19の感染拡大の情勢を考慮しつつ、安全を期して実施する。あわせて、オンラインを活用したヒアリング調査の方法も追求する。教員養成系単科大学と総合大学(病院有)を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスにより、当初計画としていた国立大学財務担当理事への取材、国立86大学(平成16~令和元)の「財務諸表」(附属明細書)を入力するアルバイトの導入が困難であったことにより人件費・謝金が使用できなかった。 翌年度分として使用計画については新型コロナウィルスの感染状況を見ながら出張旅費や謝金の消化に努める。また、統計ソフトの購入と損益計算書と附属明細書のデータベースを作成するためにアルバイト生または業者にデータ入力を依頼することで人件費とその他を消化する予定である。
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