本研究の目的は、法人化後に運営費交付機の定率削減と競争的資金のウエイトが増す中で、国立大学の経営行動や教員の研究生産性に及ぼす影響の分析を通じて、どのような資源配分方式が教育研究活動の活性化や効果的なアウトカムを生みだすのか検証することにある。研究目的に向けて3ヶ年の研究期間全体を通して実施した事業は、(1)国立86大学の法人化第1期首2004年から第3期2019年までの財務諸表(損益計算書)から作成したパネルデータによる収益と経費の固定効果分析、(2)国公私立大学に勤務する助教以上の教員に対するアンケート調査による職場への帰属意識と研究継続困難性の規定要因分析、(3)法人化第3期中期計画書項目の内容分析である。 得られた成果は、(1)については、法人化後16年間を通じた経常経費比率の顕著な傾向は、運営費交付金の減による人件費抑制を外部資金等でカバーできる総合大学とそうでない単科文系大学間の格差拡大が固定化したこと。(2)は、国立大学教員の所属機関への帰属意識を規定する条件を探ったところ、個人属性を一定としてもなお「過去3年間の研究費が100万円以下」の教員は帰属意識にマイナスの影響を及ぼすこと、研究継続困難を従属変数とする規定要因分析によれば、個人研究費が研究クライシスを抑制していること、(3)については国立86大学の第三期中期計画項目の記載率から国立大学が組織防衛のために政策意図に沿った監査可能な計画項目(法令遵守等)を導入する「強制的同型化」の圧力に晒されていることを明らかにした。 今後の研究の展開として、損益計算書のセグメント別分析、教員の仕事時間を劣化させるペーパーワークや補助金がらみで政府からストレートに降りてくるマイクロ・マネジメントの影響を明らかにし、評価制度の運用や小手先の改革ではない法人制度の抜本的改革を促すエビデンスを整備することである。
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