研究課題/領域番号 |
20K02971
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研究機関 | 筑紫女学園大学 |
研究代表者 |
山田 直子 筑紫女学園大学, 文学部, 准教授 (50421219)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高等教育 / 教育の国際化 / 欧州 / インクルーシブ |
研究実績の概要 |
本研究は、学習者が多様な文化的文脈の中で異質な他者と対話し、協働するために必要な知識や態度、スキルを養う有効な教育アプローチと方法論を欧州の事例をもとに検討することを目的としている。またこの考察に基づいて、日本の中小規模大学にとって参照可能な教育の国際化モデルを構築することを目指している。 令和2年度は、関連する文献収集・整理とオンラインによる3件の国際会議参加を通して、欧州の高等教育機関において教育の国際化を担当する実務家の言説を分析した。二つ目は、日本国内の中小規模大学、とりわけ九州・山口地域の大学における教育の国際化に関わる課題の整理と共通点の分析を行なった。 本研究は、約20年前に欧州で生まれたInternationalization at Home(IaH)を1つの分析軸としている。欧州では教育の国際化に携わる実務家らが、社会の多様な問題を見据えならがら批判的自己省察を繰り返している。その結果がIaHの概念の変化につながっていることが理解できた。現在のIaHは、社会内部に存在する様々なマイノリティを包摂する「インクルーシブな形の国際化」へと転換している。何を目標とするのかに加え、何をどのように取り組むのかについても具体的な議論が展開されていることがわかった。その一つは個々の実践の間にシナジーを創出すること、それを可能とするために統合的方法が不可欠であること、また関連する全てのステークホルダーを明確にし、教育の国際化の中心は教員であることを共通理解とすべきという見解が実務家の間で共有されるようになったことが明らかになった。 コロナの影響により世界中の大学の留学プログラムが停止した。その結果、今日までの教育の国際化が留学生の派遣・受入に依存している状況が理解できた。日本においても、大学における教育の国際化について批判的省察を行う良い機会であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度の計画は、教育の国際化に関する一次・二次的な文献資料の収集を行い、教育の国際化をめぐるディスコース分析と、高等教育政策への影響、その結果として導入されたIaHのビジョンや施策の全体像を明らかにすることであった。 文献収集については、予定していたヨーロッパ国際教育協会、EU委員会、ヨーロッパ大学協会等への訪問調査ができなかったため、日本国内でできること、つまり先行研究の調査やインターネットで入手可能な範囲での報告書データの収集を行なった。また令和2年度はヨーロッパ国際教育協会の年次大会に参加し、IaH実践に携わる研究者や実務家への聞き取りも予定していたが、新型コロナウィルス感染症の世界的な広がりによる影響で国際会議がオンライン開催となってしまい、多くの方々と意見交換をする機会を失ってしまった。しかし、概要で述べたように、3つのオンライン国際会議に参加し、ヨーロッパ高等教育機関の動向に関して、さまざまな事例とそれに対する関係者の解釈について知見を得ることができた。 さらに、本研究の最終目標である日本の中小規模大学にとって利用可能なモデル、方法論の提示に必要となる日本国内の中小規模大学の国際教育の取り組み状況とその課題について考察を行なった。その結果については、所属学会の研究会にて発表を行なった。また研究会にて中小規模大学の取り組みについて情報収集・意見交換をすることができた。加えて、日本の教育の国際化についての理念、方法論、組織のあり方等について、隣接する領域の研究者・実践者と共同研究を開始することになった。 なお、令和2年度に計画していた実践事例や施策等の情報データベース開発については、情報を取捨選択しカテゴリー化する前の段階ではあるが、生データの蓄積を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は令和2年度に行なった2つの考察(ヨーロッパ高等教育機関の国際化をめぐるディスコースと日本国内の中小規模大学における国際化の取り組みと課題)について、口頭発表並びに論文にまとめる予定である。日本の事例については、ヨーロッパ国際教育協会の冬のフォーラムにおいて発表したいと考えている。 さらに令和2年度に計画しながらも実施することができなかった実務家への聞き取り調査と、令和3年度の取り組みとして計画しているフィンランドの地方大学を事例とした実証研究を現地を訪問し、調査を実施する予定である。しかしながら、COVID19の感染状況が収束せず、海外渡航が困難と判断される場合は、オンライン開催による国際会議への参加、実務家へのオンラインでの聞き取りを行う。実証研究については現地調査を行わずに取り組むことは非常に厳しいが、先方大学の関係者と協議し、可能な方法論を検討したいと考えている。 令和3年度のデータベース開発については、フィンランドで収集する実践事例をデータベース化する予定である。しかし現地訪問ができない場合も考えられるため、上半期はインターネット上で収集できる情報を最大限蓄積し、まとめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたヨーロッパでの現地調査に必要な旅費による支出がなかったため。令和3年度については、令和2年に実施する予定であった機関訪問とフィンランドの大学での現地調査を続けて実施するため、滞在期間が長くなり昨年度使用できなかった助成金が必要となる。
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