今年度は、これまで蓄積してきた包括的アセスメントのデータの分析・発表、および実践実績から導き出された包括的アプローチのマニュアル化及び研修を中心とした。 100名を超える包括的アセスメント・データをデータベース化し、多角的に傾向を俯瞰していった。実際に分析に使用可能なデータは70名程度であったが、アセスメント対象者である学校や職場等適応に困難を持つ当事者には、従来の知的機能を中心とした評価では十分ではなく、Vineland-IIをはじめとする適応行動評価の実施がその特性の把握には不可欠であることが確認された。さらに、本研究のデータからは、知的機能と適応行動の関連性よりも、適応行動と感覚処理特性、特に過敏等低閾値の感覚処理パターンの相違が適応行動の問題に強く関連している可能性が示唆された。このことからも、複数の検査や観察データによる包括的アプローチの有用性と必要性が確認された。 年度内に2回(8月と2月)、小中学校特別支援教育コーディネーターを対象とした包括的アセスメント研修を実施した。知的機能及び適応行動、学習特性、感覚処理特性のアセスメント手法及び包括的分析・支援構築の演習を中心とした。そこで使用するためのマニュアルも作成した。 本研究は、発達障害および関連する特性を有する児童生徒の包括的アセスメントの開発を焦点に実践と検討を重ねてきた。COVID-19パンデミックによって研究実施が困難な時期もあり、研究期間を1年延長してのプロジェクトであったが、包括的アセスメントの全体的な実践手段は一つの完成形に近づいたと思われる。また、アセスメント実践によって得たデータから、当事者の現状把握および特性分析が可能となり、学会等への報告ができた。さらに、包括的アセスメント実践者養成も具体的成果を得ることができた。本研究当初計画していた内容は、概ね完遂したと思われる。
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