研究課題/領域番号 |
20K02995
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
平谷 美智夫 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 協力研究員 (60092798)
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研究分担者 |
松浦 直己 三重大学, 教育学部, 教授 (20452518)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 読字障害(発達性ディスレクシア) / 日本語話者の読み書きの特異性 / 学業成績 / ICTを使いこなす / 合理的配慮 / 注意欠如・多動症 / 自閉症スペクトラム障害 |
研究実績の概要 |
1)2020年10月現在、発達性ディスレクシア(以下DD)と診断された521例の背景因子を整理した。男/女(433/88)ADHD併存362、自閉症スペクトラム障害(以下ASD)並存260、ADHD+ASD+DD199、単独95.計算障害並存91< 2)幼児期より療育を受け、就学後にDDと診断された児童(56例)の検討。男/女(48/8)。就学前の診断はADHD&/orASD併存48。初診時の主訴は多動・構音・言葉の遅れ・かんしゃく・不注意と続いた。臨床的特徴では、文字に興味がない、絵本を見ないあるいはみせると嫌がる。お話や説明が下手、助詞がない、語彙が少ない。発話不明瞭、聞き間違い、いい間違い、しりとりや言葉遊びが苦手など。3)DD診断困難な低IQ群の読字検査では、IQ100以上の群がIQ70~85群より読みの正確性は高いが流暢性は見かけ上低かった。IQ高値群がより慎重に読んだためだと推測。読字検査の解釈上の問題点である。 4)発達障害児童のICT活用方法の獲得支援。2020年5月に小学校3年生~高校生までの神経発達症64名を対象にICT支援室を開講した。全員がADHD&/orASD,44名がDD並存。DD児童は非DD児童に比べてタイピングの流暢性が低く、スタッフが読みあげた場合でもその差は縮らなかった。3ヶ月後のこどものQOL(小学生版QOL尺度 Kid-KIndl)で、自尊感情は有意に改善した。DD児童の読みの支援にはタブレット、書字の支援にはPCが有効であるが、DDはローマ字が苦手であることが指導上考慮すべきであることが分かった。 学習障害、特に読字障害の診断と療育について30年間の経過をまとめ、DD児童は見かけ上の深刻な学業成績 の低下と自尊感情の低下をきたしており、合理的な配慮とICT活用方法の獲得が解決への道であると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の計画は、幼児期~高校(卒業後)までの横断的な調査と各学年のDDの生徒の追跡調査開始である。当クリニックでは、言葉の遅れ・落ち着きがない・コミュニケーションが苦手・かんしゃくなどを主訴に就学前に受診され療育を受けてきた幼児には、年長児にほぼ全例にDDリスク早期アセスメントを含む発達テスト、園での様子、MSPA,平仮名71文字検査などが実施され、6歳時点での精緻な最診断がなされている。就学後、大多数の児童が平仮名読みをほぼ身に着ける1年生の10月以降(2020年度はCovid19休校があり1月以降)に、担任のアンケート、MSPA,ADHD-RS、読字検査を実施している。ただし、2020年4月から正常な学校生活が運営されなかったことやクリニック自体もCovid19対策に翻弄された経緯もあり心理検査の実施が後れている。中学生の学業検査(確認テストの結果)収集も継続され十分なN数に達しており、学業成績についての報告も可能となっている。高校を卒業したDDも徐々に増えてきており、進路をある程度まとめることも可能になってきている。
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今後の研究の推進方策 |
1)DDの症状の変遷(言語面についての幼児期の症状、平仮名・カタカナ・漢字・英語の読み書き能力):幼児期の症状の検討はDDの早期発見に欠かせない。年長児にDDリスク早期アセスメントを実施し、就学した児童がかなりの数に達した。DDと非DD群について就学前の言語発達や神経発達症関連症状の有無を検討する。ひらがな・カタカナ・漢字の読み書き能力の発達についてガイドライン読み検査・STRAW-Rによる読み書き検査の成績を1~2年ごとに実施して検討する。日本語話者の英語教育のあり方が重要な課題である。英単語についてHearing,Reading,Writing 及び試験の成績をURAUS英語と学校での確認テスト(範囲指定のないいわゆる模擬試験で学年の順位が出る)を用いてDD群と非DD群について検討する。 2)小学生における学校から客観的な学業成績の結果を得ることは極めて困難であった。クリニックで実施可能な方策を模索したい。中学生の学業成績については、症例数がかなり増えたのでDD群(ADHD・ASD併存群)と非DD群(ADHD・ASD群)について、比較検討してまとめる予定。学業成績と自尊感情の関係についても検討する。 3)高校を卒業したDDと非DD群について後方視的検討を開始する。 4)1年目に実施できなかった心理検査を全年齢層について実施する。DDは高校に入ると見違えるほど明るくなる。高校入学早々に中学生時代との比較可能な心理検査を実施する。DDには不登校が多い印象が強いのでまず登校渋りの頻度についてDD群と非DD群について比較検討を加える。 5)介入効果について:クリニックでの様々な療育プログラムに参加する生徒について、タイピングスピード(読みや書きの流暢性に相当すると考える)などICT機器の活用能力の獲得の訓練効果や介入後の自尊感情などの心理的な変化などをDDと非DD群について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
直接経費内訳変更
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