研究課題/領域番号 |
20K03018
|
研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
司城 紀代美 宇都宮大学, 共同教育学部, 准教授 (30707823)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | インクルーシブ教育 / 通常の学級 / 授業研究 / 小学校 / 社会科 |
研究実績の概要 |
本研究は,通常の学級におけるインクルーシブ教育の中で互恵的学習が成立する条件を,仮説生成的手法で明らかにすることを目的とするものである。 2020年度は,まず文献研究やこれまでに収集した授業データの分析を通して,「特別な支援が必要とされる」子どもたちの言動のとらえ方についての検討を行った。その結果,表出される言動を,支援が必要とされる子ども個人の特性としてのみ見るのではなく,周囲の状況との関係の中でとらえることの重要性が示された。特に,その教室の中で何が適切とされるのかによって,言動に対するとらえ方が異なり,教師や周囲の児童のとらえ方によって,学習や活動の中に生かされる可能性があることが事例を通して明らかになった。周囲との相互作用を詳細に分析することによって,互恵的な学習が成立する条件が見出されることが確認された。 また,小学校5年生の1学級で,社会科の授業の観察及び授業者からの聴き取りによるデータ収集を行った。授業観察においては,子ども個人の特性だけでなく,状況との関係をとらえることを重視し,授業の中で発言に特徴が見られる子どもに着目した。その発言が周囲に影響を及ぼしていると考えられる場面をエピソードとして抽出し,質的分析を行っている。 分析の中で,特徴的な発言は,一見,「否定的」であったり,「突発的」で授業の内容と「無関係」であったりするものに思われるが,①授業の中で自分の感情を調整する機能をもっているものであること,②授業の内容と何らかの関連をもっており全く無関係な発言ではないことが見いだされてきている。子どもの発言と,その教科の「見方・考え方」との関連が明らかになることが,互恵的な学習につながると考えられ,今後の研究の視点となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
小学校での授業観察を8月下旬より開始したが,新型コロナ感染症対策の影響で,観察の機会が限定されることとなった。また,1月以降は緊急事態宣言の発出により学校訪問自体が難しくなったため,観察データの収集が十分でない状態である。観察データと合わせて,ビデオ撮影を依頼した映像データを活用しながら分析を進めているが,さらなる観察データの収集による詳細な分析が必要であり,「やや遅れている」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
感染症対策に留意しながら授業観察を継続する。前年度観察を行った学級で継続して授業観察を行い,エピソードの収集・分析を進める。 また,今年度はさらに,子どもの思考過程をより詳細に検討するために,授業談話の分析と合わせて子どものワークシートや授業の振り返りの記述の分析を行う。授業に一見関係がないように思われる子どもの言動や,授業の秩序から外れるように見える子どもの言動が,周囲の児童の思考にどのように影響を及ぼしているのかを分析することで,互恵的な学習の成立条件を検討していく。 感染の拡大等で学校を訪問しての観察が難しい場合には,ビデオ撮影依頼をすることでデータを収集し,オンライン等を活用しながら授業者へのインタビューを実施して,授業の状況等を詳細に把握することを予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究発表のための旅費を計上していたが,2020年度は多くの学会で新型コロナ感染症対策のためオンライン開催の大会となり,旅費の支出がなくなった。2021年度も各学会の大会はオンライン開催であることが予想されるため,旅費としての使用はないものと思われる。オンラインでの学会発表資料の作成を円滑に進めるための機器やソフトの購入,授業観察のデータ収集・分析費用として使用予定である。
|