研究課題/領域番号 |
20K03018
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
司城 紀代美 宇都宮大学, 共同教育学部, 准教授 (30707823)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インクルーシブ教育 / 通常の学級 / ヴィゴツキー / 談話分析 / 互恵性 |
研究実績の概要 |
本研究は、通常の学級におけるインクルーシブ教育の中で互恵的学習が成立する条件を、仮説生成的手法で明らかにすることを目的とするものである。 2021年度は、小学校低学年の国語授業、高学年の社会科授業の分析を行った。 低学年の国語の授業においては、支援が必要な子どもの発言や突発的な発言を契機として、子どもたちと教師がやりとりをしながら言葉の意味を明確化し共有していく過程を分析した。分析はヴィゴツキーの発達理論に基づき、具体と抽象、言葉の意味的側面と音声的側面の視点から行った。その結果、子どもたちは、はじめは言葉の音声的側面に着目することが多いが、教師が言葉の意味へと意識を向けるような発問を行うことで、それぞれの意味を言葉で説明しようとする様子が見られるようになることが明らかになった。これは具体的な言葉の世界と抽象的な言葉の世界との往還により、一つ一つの言葉が具体的な内容を伴ったものになる過程としてとらえられる。教師が直接的に教えるのではなく、子どもたち自身が言葉の意味を探求する契機をつくることが重要であり、その中で国語が苦手な子どもも国語が得意な子どもも対等に発言し、互恵的に学ぶことができると考えられる。 高学年の社会科の授業については分析途中であるが、一見授業から外れるように思われる発言や教師が予期していなかった発言の場面を取り上げ、それが社会科の教科としての文脈にどのように位置づいていくのかを分析している。ここでも、教師がその発言を既習の内容や生活経験など、抽象度の異なる内容とつなげていくことで、子どもたちが社会科の学習内容に接近していくエピソードが抽出されている。低学年国語授業で見られた過程が、高学年の発達段階に即して見られるのではないかと推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染症対策の影響で,小学校の訪問が難しい時期が続き、観察の機会が限定されている。ビデオ撮影を依頼した映像データも活用したが、子どもたちの細かいやり取りやその場で突発的に生じる出来事に関しては直接観察が望ましい。学校訪問が可能になってきたため、今後直接観察の機会を増やして詳細な分析をすることが必要と考え、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
感染症対策に留意しながら学校訪問を行い、直接観察によるデータの収集を継続し、併せて子どものワークシートや授業の振り返りの記述の分析を行う。また、観察データから見出された互恵的学習の場面をもとに、教師へのインタビューを行い、教師自身が意識的に行っていること、暗黙的に行っていることの中から互恵的な学習の成立条件をさらに詳細に検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症対策のために学校訪問が制限されたこと、学会の開催がオンラインとなったこと等により、旅費の使用が予定より少なくなった。2022年度には学校訪問を行い直接観察によるデータを補完することを計画しており、その経費として使用予定である。また、対面開催となる学会での研究発表のための旅費としても使用を計画している。対面開催がオンライン開催となった場合には、配信資料の作成等の経費に充てる予定である。
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