本研究では、通常の学級におけるインクルーシブ教育の中で互恵的学習が成立する条件について検討してきた。これまでの研究では、一見授業から外れると思われるような発言が、学習の文脈に沿って取り上げられることが重要であることが明らかになっている。学習が互恵的なものになるためには、既存の場のあり方や秩序を変容させるプロセスが重要であり、この変容を生じさせるためには、教師が授業づくりや学級経営において、「子どもたちが互恵的に学んでいる」という意識をもつことが重要であるといえる。 2023年度は、上述のような意識をもった授業者による授業を観察し、そこから、互恵的な授業のあり方について検討した。その結果、教室の中に「皆違うことが当たり前」という前提をつくること、子ども同士がお互いに援助を要請できるような働きかけをすることが重要であることが示された。また、一人一人が異なることを前提とした授業づくりにおいて、①子ども自身が自分の学び方を選択できるような授業構成によって、学び方の違いを肯定的にとらえられるようにすること、②教師が複線的な授業構成を考え、子どもたちの多様な学びに柔軟に対応することの2点が重要であると考えられる。そのうえで、子どもたちの多様な学びをつなぐ教師の即興性が重要になることが示された。 したがって、通常の学級におけるインクルーシブ教育の中で互恵的学習が成立するためには、「異なる」ことを肯定的にとらえるという土台を作ったうえで、授業の中で、教師が子どもたちの学びの多様性に対して柔軟に対応することが重要であるといえる。 今後は、授業の中で柔軟に対応できる教師の専門的力量について詳細に検討していくことが必要と考えられる。
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