研究課題/領域番号 |
20K03024
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
別府 哲 岐阜大学, 教育学部, 教授 (20209208)
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研究分担者 |
加藤 義信 愛知県立大学, 教育福祉学部, 名誉教授 (00036675)
工藤 英美 日本福祉大学, 教育・心理学部, 准教授 (90803726)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / 幼児 / 誤信念課題 / 前提確認質問 / 表象理論家 / 状況理論家 |
研究実績の概要 |
定型発達児者は直観的心理化を形成しその土台の上に命題的心理化を形成するのに対し、自閉スペクトラム症児者は直観的心理化が未形成のまま命題的心理化のみの獲得する。そうであれば誤信念課題に誤答する自閉スペクトラム症児者に対し、必要な命題を順次言語的に確認すれば正答に変わることが予想される。その命題は、①主人公は対象が移動されるときその場に不在、②ゆえに移動を見ていない、③見ていない主人公は対象が別の場所へ移ったことを知らない、④知らなければ元のところ(今は対象が無い場所)を探すはず、という順序で継起される。就学前の通園施設に通う知的に遅れの無い年長児で自閉スペクトラム症のリスクがあるとされるかつPARS-TR短縮版の得点が5点以上のもの(以下、ASDリスク年長児群)と、定型発達児年中児・年長児群に、誤信念課題を施行し、その後上記①~④の前提確認質問を施行した。その結果、ASDリスク年長児群の誤答者での前提確認質問の結果では、①~③に正答するのに④のみが誤答となる者が、定型発達児より有意に多いことが明らかとなった。前提確認質問の後、「なぜ主人公はそちらを探すのか?」という理由付けの問いを実施したところ、誤信念課題で誤答し前提確認質問①~④のどこかで誤答する者は、定型発達児もASDリスク年長児もPerner,J.のいう表象理論家による説明ではなく状況理論家による説明であった。一方、定型発達児における前提確認質問誤答者は、前提確認質問の間回答に躊躇したり葛藤する反応がみられたが、ASDリスク年長児ではそういった反応が少なかった。定型発達児は直観的心理化による正答の場所と、状況理論家に示される表象の行為反応(知っているところを答えてしまう)の葛藤がその反応にあらわれていること、ASDリスク年長児群は直観的心理化を未形成のため葛藤が存在せず、躊躇反応がみられない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
誤信念課題に誤答するものの質的分分析を行うことで、心の理論における定型発達児と自閉スペクトラム症児の質的な違いを明らかにするデータが収集できた。これを、直観的心理化と命題的心理化、両者の形成プロセスと併せて議論することで、自閉スペクトラム症児者の心の理論におけるユニークな内容についての、理論的仮説を提示するものができたと考えられる。今後は最終年度に向け、定型発達児のデータを増やし、上記の理論的仮説の検証を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度まで就学前通園施設でのASDリスク年長児群における実験は、当施設の事業との関連で実施できたが、保育園、幼稚園での実験は、コロナ禍の影響で十分に実施できなかった。今年度は、就学前通園施設でのASDリスク年長児群の実験を継続するとともに、定型発達児のデータを増やし、上記の結果をより強固なものとする。そのうえで、データに基づく自閉スペクトラム症児者の心の理論の独自性を論文化し、その理論的仮説を提示することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、保育園や幼稚園での実験を実施できなかった。そのため、そこで必要な実験補助者への謝金などが発生しなかった。今年度は前もってお願いをしてあり、昨年度までに実施すべきものも含めた実験の実施を行える予定である。
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