研究実績の概要 |
てんかんモデルELマウスは筆者らによりADHDモデルとしての妥当性が示されてきた。衝動性の実験研究パラダイムの一つにオペラント行動による遅延割引がある。これまでにELマウスは対照系統のDDYマウスに比べて報酬遅延による割引率が高く、衝動性が高いことが示された。これを踏まえて本年度は、確率割引における割引率がDDYとELとの間でどのような違いがあるかどうかを検討するため、確実小報酬と不確実大報酬の選択行動を試験した。後者の負け目((1-p)/p)を0, 1, 3, 7とし、報酬量は前者の3倍とした。現在、結果を分析検討中である。 ADHD児(者)は定型発達児(者)と比べて安静時脳波のθ/β比が高く(Barray et al., 2009等)、ADHD症状の緩和にはこの比率を低下させるニューロフィードバック(NFB)療法が有用である (Enriquez-Geppert et al., 2019)。昨年度にDDYとELの大脳皮質頭頂野において安静時脳波を記録し、これを高速フーリエ変換した値からθ/β比を算出する試験を進行させ、ELのθ/β比はDDYマウスのそれに比べて有意に高く、これが脳波学的な疾患モデル妥当性が示された。これを踏まえて今年度は、ELに対するNFB療法を実施するため、θ/βの比率に応じて与える報酬として設定する内側前脳束への脳内自己刺激(ICSS)を試験した。その結果、両系統とも適切な脳内自己刺激オペラント行動を呈した。このため、ICSSを用いたNFBを試みる可能性が開かれた。またELがDDYに比べてICSSを呈する電気刺激強度の閾値が低い可能性も示され、さらに検討を重ねているところである。
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