本年度は、まず昨年度までに引き続きELマウスおよびその対照系統であるDDYマウスの大脳皮質脳波を測定してθ/β比を算出した。その結果、ELマウスはDDYマウスに比べてθ/β比が大きいことが再認された。またELマウスにおいて前注意の不全を検討するためのミスマッチ陰性電位を測定した。その結果、ELマウスはミスマッチ陰性電位が出現せず、DDYマウスでは正常に作動する前注意課程に不全が見られた。さらに、ELマウスに対してθ/β比を指標にしたニューロフィードバック(NF)を実施した。またこれに先立ち、昨年度と同様にオペラント学習による内側前脳束への脳内自己刺激を行い、報酬として作用する適正強度を確定した。これらの結果、ELマウスは昨年度と同様90μAが適正であり、DDYマウスより高感度であることが示された。さらに脳内電気刺激を報酬としたNFにより学習前に比べて学習後のθ/βが低下する傾向が見られ、トレーニング中に正のフィードバックを受ける回数も上昇する傾向が見られた。 当課題における研究成果は、ELマウスの行動・認知・情動・脳波・神経メカニズムの全ての面と層においてADHDモデル動物としての妥当性を示し、ADHD児(者)に対して効果的なNF療法がELマウスにも効果的であることが示唆された。ADHD児(者)がその特性をハンディキャップとせず適切に環境適応するために、応用行動分析・薬物療法・NF療法を組み合わせて相乗化を図ることが望まれる。本研究の成果は、この最適解のための理論的研究になる可能性を持つ。本課題期間が新型コロナウイルス感染症の拡大に寸分なく重なり、半導体製品の不足等々の影響を受けたものの、ADHDの行動神経メカニズムの解明と臨床応用の一助になったと考えられる。ひきつづき疾患モデル動物でのNFの確立に向けて研究の進展が期待される。
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