本研究は、インクルーシブ保育下の語音聴取能の評価法の開発を目的とした。具体的には、わが国では未開発である幼児用語音聴取閾値(SRT)検査(ノイズ負荷条件を含む)および、インクルーシブ保育下での子どもの聴性行動・コミュニケーション行動を把握するための評価質問紙の開発を行うこととした。 研究1:幼児用語音聴取閾値検査(絵図版によるピクチャーポインティング法)のための2音節単語素材の検討を行った。母音の無声化がある語、狭母音のみで構成される語を除き、アクセントが高-低、低-高が6語ずつ含まれるようにし、語音聴力レベルのデシベル尺度に適合させることを目指した。TY-89(田中,1989)の幼児用2音節単語を音源サンプルとして、12語のクローズドセットとなるように試作し、日本聴覚医学会の57-S語表との聴取閾値の差を補正値として求めた。結果、8.8dBの差が生じたが、この差を補正したところ、両者の波形振幅に差が生じてしまい等価とはならなかった。話速を遅らせる検討を行ったがSRT下降はみられず、元々の語音弁別に貢献する情報量(冗長性を組む)の等価性確保の必要性が示唆された。 研究2:雑音下の語音聴取への影響について、57-S 単音節音源が収録された雑音下の聴取への影響を明らかにするために、健聴大学生によるSN比=10dB、5dB、0dB、-5dB、-10dBの5条件における語音明瞭度検査を実施した。結果は、SN 比 0dB 以上では 85% 以上の明瞭度が保持され、SN 比-5dB 以下から急峻な明瞭度低下が生じることが分かった。 研究3:2歳から就学頃までの年齢を想定して、Attention(注意)、Behavior(行動・多動性)、Communication(きこえ・コミュニケーション)、Participation(参加)の4カテゴリーによる質問紙を開発した。
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