本研究では,キャンパスの心理的バリアフリー推進を目的とし,障害の社会モデルを切り口とする発達障害を問題提起教材に用いた新たな発見型学習プログラムの開発を目指してきた。令和4年度は,本研究に先行して取り組んでいた障害平等研修をモデルとした学習プログラムに,参加者が発達障害における「障害」をどのように捉えるかを問うパートを付加し,実際に5クラス55グループにて実施した。 令和5年度は,この令和4年度に実施したグループワークの中で参加者が記述したワークシートの内容について分析を進めた。本ワークショップは大きく2つのパートから成っており,前半は車いすユーザーの事例を用いて障害のとらえ方を問う内容で,後半は発達障害の事例を用いて障害のとらえ方を問う内容となっている。 前半の車いすユーザーの事例では問いかけが3回あり,参加者の障害のとらえ方が自らの気づきによって変化することを意図した構成となっている。今回も1問目では医学モデル的回答が92%を占め,社会モデル的回答は1%であったものが,3問目では医学モデル的回答は15%に減少し,社会モデル的回答が69%を占めた。ここまでは事前研究と同様,ワークショップ参加者が障害の社会モデル的視点を発見していく過程が確認できた。 今回追加された発達障害のパートでは,動画を用いた問題提起教材を視聴したのちに,前半と同じく「何が障害か?」を問いかけた。前半パートにおいて社会モデル的視点を獲得した69%の参加者について,発達障害の事例における回答を分析したところ,このうち医学モデル的回答が54%で,社会モデル的回答は9%に留まった。両モデルの捉え方を並記した回答を合わせても,障害を社会モデル的視点で捉えた回答は27%に留まった。 この結果から,問題提起教材の改良という課題とともに,新たに発達障害における社会モデル視点の減退の理由について検討が必要となった。
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