研究課題/領域番号 |
20K03062
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
新井 達也 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 准教授 (70331303)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | eラーニング / 聴覚障害 / 高等教育 / 数学教育 |
研究実績の概要 |
本研究は,高等教育機関に学ぶ聴覚障害学生を対象とした非同期型eラーニング教材の開発と評価を目的としている.聴覚障害学生に対し,eラーニング用の動画コンテンツを提供する際には,通常の字幕を付与するのみでは十分な内容理解を促すことが難しい場面もある.特に,動画コンテンツの説明映像内で講師が「この図」「あの式」などの指示語を多用する場合,講師の発声から字幕表出までのタイムラグもあるため,字幕と説明映像を適切に対応付けて理解することは容易ではない.そこで,2020年度は,文字情報のみを提示する字幕(通常字幕)との比較を通して,字幕画面の中に文字情報と同時に数式や図表を提示する字幕(ハイブリッド字幕)の有効性を検証した.聴覚障害学生が,字幕付きの講義を受講する場面を想定した実験を通して得られたデータの定量的な分析結果から,ハイブリッド字幕が,通常字幕に比べて同等以上に授業内容の理解を助けることが示唆された.また,講義における受講者の視線行動の特徴を把握することが,より有効な動画コンテンツの提供につながると考え,3つの注視対象(講義映像,字幕映像,配布資料)間の受講者の視線行動を分析した.その結果,注視対象間の視線移動の割合について,字幕の違いによる有意差がないことや注視対象間の視線移動は循環型ではなく,講義映像を中心とした往復型の視線行動であることが両字幕に共通して示された.さらに,両字幕を利用した授業における講師の行動と受講者の視線行動の関係についても調べたところ,講師の板書行動に伴い,字幕映像への視線移動の回数が減少し,配布資料への視線移動が増加することが確認できた.その傾向は,通常字幕に比べてハイブリッド字幕に顕著に表れた.このような受講者の視線行動の特徴を念頭に置いて,今後のeラーニング教材の作成を進める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
聴覚障害学生を対象とするeラーニング教材としての動画コンテンツの作成に向けて,講義で利用される字幕の違いによる学習効果への影響や受講者の視線行動,講師の行動と受講者の視線行動の関係について定量的に分析し,いくつかの知見を得ることができた.具体的には,(1)ハイブリッド字幕が,通常字幕と同等以上に授業内容の理解を助けること,(2)ハイブリッド字幕・通常字幕に共通して,注視対象(講義映像,字幕映像,配布資料)間の受講者の視線移動は循環型ではなく,講義映像を中心とした往復型の視線行動であること,(3)講師の板書行動に応じて,受講者の字幕映像への視線移動は減少し,配布資料への視線移動が増加するが,その傾向は通常字幕に比べてハイブリッド字幕において顕著であること,などである.また,数学のリメディアル教材として,既存のeラーニングシステムを利用し,スモールステップで演習問題に取り組めるように工夫した教材を試作し,学生の個別学習のために提供した.
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今後の研究の推進方策 |
聴覚障害学生を対象とした字幕付きの講義を想定した実験から得られたデータの分析結果を活用し,eラーニング用の動画コンテンツの作成を進めて行く予定である.それと同時に,動画コンテンツ以外のeラーニング教材の開発も進め,学習効果等を調べるための実験の準備を進める.数学のリメディアル教材として試作したeラーニング教材の学習ログや学生たちからの意見等を参考にして,必要なコンテンツの付加,システムの改良点などを検討し,教材としての完成度を高めていくとともに,ドロップアウト防止のための学習サポートのあり方など実用化に向けた環境の整備を進める.
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